柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

左派のダブルスタンダード

作家の島田雅彦氏が安倍元首相の暗殺について「いままで何ら一矢報いることができなかったリベラル市民として言えばね、せめて『暗殺が成功して良かったな』と。まあそれしか言えない」などと述べ大きな批判を浴びています*1。社会的地位のある方がテロ礼賛を軽々しく述べることがどれだけ危険かは言うまでもないでしょう。多くの方が失言を強く批判していますし、全く当然のことであると思います。

ところが、左派の方はというと、殆ど沈黙しているに等しい状況です。その場におられた白井聡氏や青木理氏も島田氏の発言を諫めることはありませんでした。常日頃はポリティカルコレクトネスを振りかざし、些細な発言にもしばしば文脈を無視して激しい攻撃を加え、相手が社会的地位を完全に失うまで追及をやめない方々は、元首相の暗殺の肯定に対しては随分寛容であるようです。

これは今に始まったことではありません。以前から安倍元首相への人権侵害はごく日常的でした。「あべしね」と書いたり、「お前は人間じゃない!たたき斬ってやる!」と言ったりしてもそれは風刺で全く問題ないといわれていました*2。安倍元首相と友人だというだけで、ある歌手に早く死ぬべきだったという趣旨のことを書いた方がいましたが*3、その方は相変わらず左派メディアの寵児です。安倍元首相が殺された後も暗殺犯に「よくやった」といったり、故人やその家族に対して書くのもはばかられるような酷い言葉を口にする方がたくさんいましたが、左派の論客でこういった極端な言動を批判した人は殆どいませんでした。生まれによる差別に普段反対しているはずの方々が、安倍は「妖怪の孫」だとか今も平気で書いていますし、テロにあって当然だといわんばかりです。

左派は人権侵害とは戦ってくれるはずだと期待したいのですが、選り好みが随分ひどいとしか言いようがありません。例えば最近私がしばしば取り上げている自民党のえりアルフィヤ氏に対する極右の人権侵害やデマの拡散*4に対しても、声を上げてくださる方はやはり殆どいません。自民党の政治家なら、人種差別や女性差別で酷い中傷を受けていてもどうでもいいのでしょうか。こういうダブルスタンダードは残念というしかありません。

*1:以下をご覧ください。青木理氏出演!『暴走する権力(政治・警察・検察)、堕落するメディア、隷属する国民を斬る!』(2023年4月14日放送・前半無料パート)ゲスト:青木理、出演:島田雅彦・白井聡、司会:ジョー横溝 - YouTube 問題の発言の文脈は21分7秒頃から22分40秒頃までの部分を見ると大体理解できます。島田氏の発言は「こんなことを言うとまた顰蹙を買うかもしれないが」とは言っていますが、「暴力はもちろん許されないが」といった但し書きもなく、全く弁護の余地がありません。このようなテロ肯定の暴言を「リベラル」と称するのは全く倒錯しています。島田氏は、夕刊フジの取材(安倍元首相の「暗殺成功して良かった」で大炎上、作家で法大教授の島田雅彦氏 発言翌日に岸田首相襲撃 夕刊フジに寄せた全文を掲載(5/5ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト)に対して「テロの成功に肯定的な評価を与えたことは公的な発言として軽率であったことを認めます」と弁解してはいるものの、「安倍元首相襲撃事件には悪政へ抵抗、復讐(ふくしゅう)という背景も感じられ、心情的に共感を覚える点があったのは事実」とするなどテロへの共感を隠していません。

*2:「「死ね」って実はかなり日常的に使われる言葉」だから問題ないのだなどと述べた左派政治家もいました。

*3:一応、最終的に謝罪はしていますのでお名前は挙げません。しかし、その謝罪対応は極めてお粗末でひどいものでした。普段なら左派の論客は謝って済まされるものではないなどといっていつまでも極端な追及をやめませんが、この件に関してはそうではなかったようです。

*4:こちらをご覧ください()。