柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

見出しに飛びつくべからず

まあ、こんな記事にいちいち批判を書いても仕方ないのですが、偶々目に入ったのでコメントさせていただきます。

パックン バイデン大統領の“日本人は外国人嫌い”発言に「そこまで間違っていないかも」 | 東スポWEB (tokyo-sports.co.jp)

この記事に極右の皆さんは随分お怒りのようです。

Xは本当に治安が悪いですね。どうもこういった方々は日本人は外国人が嫌いで差別的な国だということを全力で証明したがっているみたいですが、こんな人たちの標的にされたパトリック・ハーランさん(パックン)はとてもお気の毒です。

さて、この問題の東スポの記事はいろいろな意味でひどい記事なのですが、それは極右の皆さんが勝手に想像されているのとは全然違う理由からです。

まず、この記事は見出しと内容に大きなずれがあります。パックンは「日本人は外国人が嫌い」などと一言も言っていません。むしろ全く逆です。記事本文を読めば、パックンの発言の趣旨は、むしろバイデン大統領の発言に対して極めて批判的で、その主張を強く否定するものであることがわかるはずです*1。最近の日本は移民受け入れを増やしており、日本人は外国文化に対して米国人よりも関心が高いと指摘し、「日本人は外国人嫌いではない」と明言しています*2

ここまで好意的な発言をされる方は珍しいくらい日本にとても好意的な発言です。パックンは日本人は外国人嫌いではないことを強く主張したうえで、最後に以下のような小さな留保条件を付けています(東スポが変な見出しを付け、極右の皆さんが飛びついたのはこの最後の部分です)。

「ただ、増加率が高いとは言え、日本にいる外国人の絶対数は、西洋各国に比べて非常に少ない。…〈中略〉…バイデンの思い込みは古いとはいえ、中国、ロシア、インド、日本が経済的に振るわない理由に(少なくとも数年前までは)移民に後ろ向きだったことを挙げているという、発言の趣旨自体はそこまで間違っていないかもしれない。」

しかし、これが「日本人は外国人嫌いだ」と主張する内容でないのは自明でしょう。一連の発言を読めば、発言の意図は「日本人は外国人嫌い」ではないことを強調するものであるのは明らかです。

この発言に対して、「パックン バイデン大統領の「日本人は外国人嫌い」発言に「そこまで間違っていないかも」」などという見出しをつけるのは、発言の趣旨を完全に歪めるものであり、まさに「見出し詐欺」です。「日本人は外国人嫌いではない」と明言している人物の発言を要約した見出しとして、これ以上に不適切で失礼な見出しはないでしょう。こんな見出しを付けたのは不注意か読解力の欠如か、はたまた極右のアクセスを狙った炎上狙いなのかよくわかりませんが、報道機関にあるまじきことです。

そもそも、この記事は、単にパックン本人のSNS上の発言をただまとめているだけの記事です。本人に取材したものではありませんし、引用にもミスがあります*3。まあ、極右の皆さんは日ごろから取材も証拠もなしに誰彼かまわず気に入らない相手に向かって「中国からカネをもらっているのか」とか「中国の工作員」とか気軽に何の根拠もないことを書いて他人を傷つけて平気な人が多いので、何も問題に感じないかもしれませんけれど…

記事にもがっかりしますが、極右の皆さんのパックンの発言に対する反応には、尚更がっかりさせられます。記事の本文も読んだ上で攻撃的な内容を書いている人も確かにいるにはいますが、明らかに何一つ読まずに「外国人嫌いとは何事か」と見出しに激怒して的外れな”反論”を書いている方が多く見受けられます。また、全く見当はずれな人身攻撃をされている方も少なくありません。日本の美点を評価してくれた方に対する随分結構なお礼の仕方ですね。見ているだけで本当にうんざりさせられます。

SNSに投稿するときは、腹が立っても深呼吸して、少し考えてから投稿することをお勧めしたいものです。単に人を傷つけることしかできないような文章など書かない方がましでしょう。「左翼メディアの劣化が…」「反日が…」とか決まり文句を言う前に、まずご自分のやっていることにもう少し注意されてはいかがでしょうか?

残念ながら、極右の皆さんの言動を聞いていると、パックンの評価よりもバイデン大統領の評価の方が正しいのではないか心配になってきます。日本に好意を持ってくださっている外国の方に対して、礼儀を知らない無礼な発言をする心無い人が多いのにはうんざりします。こういう少数の意地悪な方のせいでせっかく日本に好意を持ってくださった方が嫌な思いをするとしたら本当に腹立たしいことです。あなたが日本大好きの右翼なら、あなた方の心無い言動で日本のイメージが悪化することをもう少し気にしてくださいと言いたいところです。

なお、わかり切っていると思いますが、ここに書いたのはパックンの意見に賛成なのか反対なのかとかそういう次元の話ではありません。意見が正しい間違っている、好き嫌い以前の話として、まず記事を読み、事実を確認しましょうという話です。

*1:記事にもパックンは「バイデン大統領の“外国人嫌い”という見方を否定」したとはっきり書いてあります。高名な評論家氏はちゃんと記事を読んだのでしょうか?

*2:この記事のもとになったパックン本人の発言(Xの投稿より引用)は、以下の通り。

「【視点】真鍋さんの指摘に似ているが、10年で在留外国人の人数が50%アップ。15年で外国人労働者が4倍に増えた!この数字を見ると、日本は本当に外国人ウェルカムな国に映るでしょう。

しかも、日本人は昔から外国の時事、文化、職、エンターテインメントにも目を向け、外国語も全員勉強している。外国人に多大な興味を示していると思う。字幕付きの映画をまず観ないアメリカ人の数を考えると、我が国のほうが内向きに思われる。

30年の在日経験からいうと、僕はたまに嫌われることがあるが、それは多分自分の落ち度なだけ。日本人は外国人嫌いではない。

ただ、増加率が高いとは言え、日本にいる外国人の絶対数は、西洋各国に比べて非常に少ない。まだおよそ全人口の3%だし、このまま増え続けても2070年にはそれが10%に上がるだけ。

また、在日外国人の経済的な貢献は間違いないが、まだアメリカみたいに上場企業を大量に創立しているなどの経済効果は見えていない。

バイデンの思い込みは古いとはいえ、中国、ロシア、インド、日本が経済的に振るわない理由に(少なくとも数年前までは)移民に後ろ向きだったことを挙げているという、発言の趣旨自体はそこまで間違っていないかもしれない。」

*3:記事には、以下のような記述があります。

30年の在日経験からいうと、僕はたまに嫌われることがあるが、それは多分自分の落ち度ついては「なだけ。日本人は外国人嫌いではない」とバイデン大統領の“外国人嫌い”という見方を否定。

これは、「30年の在日経験からいうと、僕はたまに嫌われることがあるが、それは多分自分の落ち度なだけ。日本人は外国人嫌いではない。」という元の文章を誤って引用したものです。まあ、タイプミスはよくあることですから(私もやってしまうことはありますし)、そこまで咎めるつもりはありませんが、それにしても雑なまとめ記事というしかないでしょう。