柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

見出し詐欺にご用心(3)

左派メディアの「切り取り偏向報道」を批判し眉を顰めるのが昔の保守派でした。ところが、今を時めく自称真正保守の方々は切り取りが大好きなようです。

えりアルフィヤ氏の音声が”流出”などと称して右派サイトに公開されている音声は、公開の場でえりアルフィヤ氏が話した言葉を前後の文脈を無視して切り取ったものです。中には、音声のトーンをヒステリックに響くように調整している悪質なものもあるようです。公開の番組から無断で切り取ったものを「音声流出」などと称して公開するのは著作権侵害である上に、集客のための卑劣な見出し詐欺*1です。

例えば「日中戦争になった場合、日本のために戦えるのか」と聞かれて「差別的質問ですよね」と答えている動画が出回っていますが、実際のやり取りは以下の通りです。

「ご親戚が中国国内にいらっしゃるそうですが、日本と戦争状態になった場合、日本のために中国と戦うことができますかっていうような想定の質問が来ているんですけれども。」

「差別的な質問ですよね。すごく。はい、私は日本人であり、日本の政治家となるために出ているので、もちろん日本をファーストとして考える。そして、ご親戚が中国にいるっていうのは、それも私は少し語弊があると思いまして、両親は日本にいますし、家族もたくさん日本に住んでいて。私は日本で生まれ、日本で育った日本人ですので、そこはちょっとどうかなと思います。まあ、遠い親戚はウイグルにいたりしますけれどね。」*2

発言の意図は一読して明らかでしょう。肝心な部分を意図的に切り落とした音声だけを流すのは明らかに悪意ある切り取り偏向報道です。この発言の真意についてTwitterでは次のように説明しています。

日中戦争になった場合、日本のために戦えるのか」との問いにつき、音声が切り取られ、本来の趣旨とは違う印象となるものが拡散されております。このため、私の立ち位置を、改めて表明させていただきたく存じます。

一言でご質問に答えると、「もちろん日本のために戦います。」私には母国が日本しかなく、むしろ、日本以外の国を挙げられることを侮辱的に感じます*3

日本で生まれ日本国籍を持つ立候補者に対して、そのような質問をするのは実際、かなり失礼でしょう。日本のために働きたいと思って立候補したのに、なぜそんな疑いをかけられるのか、心外に思われたのだということはよくわかります。「日中戦争になった場合、日本のために戦えるのか」という質問を他の候補者に対して普通はしますか?「いや、それでも信用できない」というなら、それは人種差別主義以外に何か理由があるでしょうか。

極右の方は「えりアルフィヤ氏は自分への批判を何でも差別といっている」と言いつのっていますが、例えば、以下のような”批判”は明らかに差別ではないのでしょうか。

「悪魔の仕業でこの国を滅ぼそうとするてめえをとことん潰さないと!〈…中略…〉てめえは日本の敵!そんな悪女にツベコベ言われる筋はない。こっちを滅ぼそうとしたらやり返すまでの話」

 

「親が中国の洗脳教育を受けていますよね。ウィグル人って共産党教育を受けて洗脳されている人もいます。そういう人って自分が移住先の政治家になるか子供を政治家にしたがります。なぜなら中国の為に工作する目的があるからです。」

 

「ヒステリックで怖い…C国人みたいですね」

 

「傲慢な発言をする中国共産党工作員

 

「国籍を剥奪して中国に帰らせるべきです」

 

「このバカの元外国人が国会議員を目指す?たいがいにしろよ、自民党!」

 

どんな相手に対してだってこんな失礼で侮辱的なことを言っていいはずはないでしょう。匿名の人はもとより、社会的地位のある方も平気でこんなことを書いているのです。これが差別でなかったら何なのでしょう。誰だってこんなことを言われたら怒るのは当然です。本人のこの件に関する弁明は以下の通りですが、全くその通りだと思います。

他党はもとより自民党所属であるはずの地方議員からさえもヘイトスピーチとしか言いようがない罵倒を受ければ誰だって怒りたくなるでしょう。

出鱈目な怪情報を根拠に、人を攻撃するのは非常に恥ずかしいことです*5。インスタライブやYoutubeに公開されている情報を切り取り加工する犯罪者がいたからといって、それは本人の責任ではありえませんし、被害者の方が批判されるのはおかしな話です。

*1:関連の投稿は1, 2 をご覧ください。

*2:「ハタケと770のゲリラ特区」今夜も電凸!(2022年6月6日20時〜放送) - YouTube

*3:えりアルフィヤ氏のTwitter, 2022年8月10日. URL:https://twitter.com/eri_arfiya/status/1557217996313366528, https://twitter.com/eri_arfiya/status/1557218180996956160

*4:えり アルフィヤ氏の Twitter,2023年3月27日

*5:例えば、アゴラ編集部は「アルフィア氏は情報と情動のコントロールもままならないようです」などと書いていますが(衆院千葉5区えりアルフィヤ氏は自民党をぶっ壊せるのか? | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp))、普段の怪文書や出所不明なデマへの警戒心はどこに行ったのでしょうか?先の国会では、小西洋之参院議員が総務省の行政文書を根拠に高市早苗経済財政担当大臣を追及しましたが、多くの右派論客は小西氏の文書が作成経緯不明の疑わしい文書であることを指摘しました。アゴラ編集部も同様でした。ご指摘はもっともですが、それでいて、自分たちの「敵」が相手であれば、ネット上の出所不明な怪情報に飛びつくのはいくらなんでもおかしくはありませんか。なお、「アルフィア氏」というのは原文のままです。人を中傷するなら、せめて名前ぐらいは正しく書きませんかといいたいところですね。