柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

見出し詐欺にご用心(1)

ネット記事を読むとき、忙しい社会人の方は大体見出しだけを見て内容を判断されると思います。時間の節約には有効なやり方ですが、見出しだけを見ているとしばしば気が付かないうちに間違った偏見を持ってしまう場合があります。

良い例が2022年6月の黒田総裁の発言をめぐる一連の報道です。見出しに「日銀総裁「家計が値上げを受け入れている」」などとあれば、「日銀総裁がけしからんことをいったのだな」と思って怒りはしても大半の人はそれ以上読まないでしょう。詳しくはSYNODOSの私の論説や『自由な社会をつくる経済学』での岩田規久男先生との対談に譲りますが、実際の黒田総裁の発言は次の通りです。

「日本の家計が値上げを受け容れている間に、良好なマクロ経済環境を出来るだけ維持し、これを来年度以降のベースアップを含めた賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが、当面のポイントである」

常識的な読解力があれば、黒田総裁の意図は誤解しようがありません。黒田総裁が言いたかったのは、家計が値上げに耐えている間に、景気を回復させ、賃上げにつなげるべきだというごく当たり前の話です。それが無責任な報道の結果、実際の発言とはかけ離れた誤解が独り歩きしてしまいました。見出しを付けるメディアには大きな責任があるのですが、残念ながら、そうした責任は閑却されがちです。

忙しい社会人の皆さんがこうした情報の真偽をいちいちチェックし、確認する時間がないのはもちろん当然です。見出し詐欺から完全に自衛するのは難しいでしょうけれども、できることはあります。月並みなアドバイスですけれども、極端な情報を伝える内容や感情的な言葉を使っている見出しには疑いの目を向けることが大事です。見出しだけ見て「**は馬鹿だ」とかいった情報を拡散するのはもちろん控えるべきです。そんなことをしては自分自身もフェイクニュースの拡散に手を貸す側に回り、加害者になってしまいます。自戒も込めて書きますが、公の文章を書くことには本当に重い責任があります。