柿埜真吾のブログ

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植田新日銀総裁がまずすべきこと

4月9日、植田和男氏が日銀総裁に就任し、今日は就任後最初の記者会見[1]が開かれました。植田総裁の会見は副作用に配慮しつつ現行の金融緩和を継続するという趣旨の無難な答弁に終始し、新しい情報は殆どありませんでした。結局、植田総裁がどういう方針をとるかは4月27日・28日の金融政策決定会合までは分からないというしかないでしょう。

最近でこそ金融緩和継続を支持する立場を表明していますが、植田総裁はかつて量的緩和イールドカーブコントロール(YCC)に対して批判的な見解を述べるなど、リフレ政策には懐疑的な立場をとってきた方です。時期尚早な金融引き締めを不安視する見方が多いのは当然でしょう。昨年来の長期債券市場の混乱は、黒田総裁退任後、新総裁の下で金融緩和路線の大幅な修正が起きるのではないかという観測が背景にあると考えられます。植田総裁は衆参両院の所信聴取では、現在は金融緩和継続の立場であることを表明されましたが、懸念は払拭されていません。

最初の金融政策決定会合で植田総裁がまずなすべきことは、日銀はインフレ率2%の安定的持続的達成まで緩和を継続する意思があるということをはっきり示し、早期引き締めの観測を打ち消すことだと思います。撤廃が予想されているYCC[2]をはじめとする現行の金融緩和継続を明確に打ち出すべきでしょう。現在の日銀は、インフレ率2%が安定的に達成されるまで緩和を続けることを約束するオーバーシュート型コミットメントを採用していますが、これをさらに強化し、物価水準目標のような政策を採用することも一案です。

黒田前総裁の下での大胆な金融緩和により2%目標達成は目前に見えています。黒田前総裁が切り開いた道を進めばよいだけですから、引き締めのタイミングを間違えさえしなければ、植田総裁の仕事はある意味では黒田前総裁ほど困難なものではないでしょう[3]。とはいえ、今年は世界経済の大幅な減速が続き、金融危機のような大きなショックが発生するリスクもゼロではありません。植田新総裁には必要であれば躊躇なく大胆な政策をとった黒田前総裁の方針を見習って、2%達成を成し遂げていただきたいと思います。

 

[1] 植田総裁「マイナス金利は継続が適当」/日銀 植田総裁就任会見(2023年4月10日)【ノーカット】 - YouTube

[2]昨年12月に問題になったイールドカーブの歪みは日銀のオペの運用改善等もあって現在は解消されていますし、世界的金融不安の真っただ中でYCCを見直すのは極めてリスクが高いでしょう。

[3] 植田総裁は就任会見で、黒田前総裁の評価について「ひょっとしたら私が黒田総裁が就任された時期に総裁であったら(やや危険なことを申し上げますが)、決断できなかったかもしれないような思い切ったことを決断され、実行された」という趣旨の発言をされていましたが、これは謙虚なご発言でしたし、実際、率直なお考えだろうと思います。