柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

YCC修正?日経のスクープについて

誤報であってほしいと思いますし、そうでないとすれば日銀のコンプライアンス上も問題です。昨晩遅く、日経新聞は、今日開催の日銀金融政策決定会合イールドカーブコントロール(YCC)の修正が議論されると報じました。10年物国債金利の0.5%の上限を超える変動を容認する提案が議論されるとのことです。 事実だとすれば大スクープです。

日銀、金利操作を柔軟運用 上限0.5%超え容認案 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

日経には、黒田前日銀総裁の後任人事を外した大誤報の前科がありますから*1、今回の報道も誤報である可能性はあります。報道が誤報なら人騒がせな話で、市場操作に等しいといわれても仕方ないでしょう。

しかし、仮に報道が事実だとすれば(日経は通常はそれなりの根拠のある記事を書いているはずですから)、日銀の最重要機密の情報が外部に漏洩したことを意味しますから、これは大問題です。政策決定に関する情報をいち早く入手できれば莫大な利益を得ることができる可能性があります。実際、YCC修正はないという見方が優勢だった中で、今回のニュースはかなり不意打ちで、早速、円ドルレートは一時138円台になり、大幅な円高に振れていますし、このニュースを事前に知っていたなら大きな利益を得ることができたでしょう。金融政策決定会合の内容のリークは、日銀の信頼を損なう重大な問題です。日銀は関係者を特定し厳正に処分すべきです*2

他の場所でも繰り返し書きましたからここで敢えて詳しくは書きませんが、YCC修正は現時点で必要な政策とは思えません。3月以降、イールドカーブの歪みは解消されていますし、資源高も明らかにすでにピークを過ぎており、早急な対応が必要である理由は見当たりません。拙速な政策の変更が望ましくないことは日銀自身がこれまでさんざん広報してきたことだったはずです。4月28日の決定会合では、わざわざ「日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していく」と宣言したばかりです。3か月足らずで方針を修正するのはあまりに早すぎます。今このタイミングで政策を微修正するのは2%目標達成へのコミットメントを損なうだけで、メリットは殆どないでしょう。唐突な政策修正はこれまでの説明とは整合性が取れません*3誤報であっても、そうでなくても大問題ですが、誤報であってほしいと願うばかりです。

まあ、これが誤報なのか事実なのかは今日のお昼にもわかることですが…

 

*1:日銀次期総裁、雨宮正佳副総裁に打診 政府・与党が最終調整 - 日本経済新聞 (nikkei.com).もっとも日経によればこれは単純な誤報ではないそうですが。

*2:もちろん、事実ではない可能性もあります。その場合は、問題は日経の方です。日経は取材体制に問題がないか検証すべきでしょう。

*3:例えば、7月18日の記者会見で、植田総裁は「持続的・安定的な 2%のインフレの達成というところにまだ距離があるという認識がこれまであって、そういう認識のもとでは、金融仲介機能とか市場機能に配慮しつつ、イールドカーブ・コントロールのもとで粘り強く金融緩和を続けていく」とし、「それの前提が変わらない限り、全体のストーリーは不変である」と述べていました。今日になって突然、この前提が変わったということはないように思われます。確かにインフレ率が当初の予測より上振れしているとは言えるかもしれませんが、デフレ均衡から完全に脱却するにはむしろある程度インフレ率のオーバーシュートが起きることは望ましいですし(日銀自身オーバーシュート型コミットメントを採用しています)、現在のインフレは主として国際的な資源高の影響によるものです。輸入物価の動向からみても、既にインフレのピークは過ぎていると考えられます。植田総裁はじめとする執行部は、インフレ率の上振れリスクは下振れリスクに比べて対処が容易で、2%目標未達の方が問題であるという趣旨の発言をこれまで繰り返し強調してきました。丁寧なコミュニケーションの重要性も、植田総裁は就任以来一貫して強調されています。唐突な政策修正や日経へのリークは無論、丁寧なコミュニケーションではないでしょうし、誤報であると信じたいところです。