柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

植田総裁に記者が聞くべきだったこと

28日の記者会見といえば別の記者会見の方を思い浮かべる方が多いかもしれませんが*1日銀総裁の定例記者会見についてお話ししたいと思います。

28日の定例記者会見では、当然ながら、YCCの柔軟化に質問が集中しました。鋭い質問もあったものの*2、記者からは肝心な質問が出ませんでした。27日深夜の日経の記事に関する質問です。今回の政策決定の内容から見て、日経の記事は明らかにリークに基づくものでしょうし、報道によって市場は大きく動きました。先日の記事にも書いた通り、これは日銀のコンプライアンス上、あってはならないことです*3

日銀として情報管理はどうなっているのか、27日の日経報道はリークに基づくものである可能性が高いが、日銀として調査を行う考えはあるのかといった質問が出るのは当然だと思うのですが、いかがでしょうか。

記者会見の場にいらっしゃった記者の方々は、こういう情報源と癒着した取材手法や記者への機密情報漏洩には疑問を感じなかったのでしょうか。いつも日銀の記者会見では極端に攻撃的な質問をされる記者の方が幾名かいらっしゃいますが*4、そうした方々からもこの点に関する質問がなかったのは実に不思議です*5。この問題はこのままうやむやにされていいことではないと思います。

*1:慌ただしく詳細に触れる余裕がありませんが、木原誠二官房副長官とそのご家族への人権侵害的な報道については、以下の記事がよくまとまっています。「俺の見立て」「個人的な感覚」…文春セットの元捜査員記者会見に批判噴出 – SAKISIRU(サキシル)

これは恣意的な犯罪捜査やいい加減な犯罪報道の問題であって、木原氏の問題ではないでしょう。木原氏の政治姿勢を嫌う極右、極左の方が報道をもてはやしていますが、好き嫌いや自分の勘で人を犯罪者扱いしていいわけがありません。

*2:中でも日経の清水氏の質問は良かったと思います。今回の措置をとった理由の一つはYCCの為替相場への影響を懸念したものかという趣旨の質問に対し、驚いたことに植田総裁は為替相場ボラティリティを抑えることも政策変更の理由の一つだと認めました。これは政策目標として不適切ですし大きな問題です。

*3:Twitterなどで田中秀臣先生が指摘されているように、今回の情報のリーク元は政府関係者である可能性が高いので、日銀の問題では必ずしもないかもしれません。ともあれ、いずれにせよ調査を行い、関係者を処分すべきことは明らかです。

*4:まあ、本当に鋭い質問ならよいのですが、どちらかといえば、毎回、喧嘩腰の態度で質問し、同じような自説の演説や罵倒に終始していて、正直、答える方も嫌になって当然だと思います。

*5:反権力を気取りながら、自分たち自身が持つ特権に無自覚なのはいただけません(これは文春の例の報道にも言えることですが)。なお、今回は記者会見終了後、質問できなかった記者の方が「いつもより短いじゃないですか。何で今月だけ特別なんですか」、「1時間で終わったことなんてないじゃないですか、最近」等と声を荒げる場面があり、少々不穏でした。総裁も記者会見の運営の方々も人間ですし、何もそんな喧嘩腰でなくてもいいのではないかと思います。広報課の方も説明していたように、会見は毎回45分を予定しており、延長していつも1時間程度で終わるのが慣例です。会見終了が告げられたのが動画では1時間3分40秒ほど経過した時点です。会見は動画では3分50秒頃から始まっていますので、ちょうど1時間です。過去の日銀の記者会見の動画は8つ公開されていますが、殆どが1時間1~3分程度の長さで、最長のものでも1時間10分です(これは植田総裁、氷見野副総裁、内田副総裁の就任会見なので特別です)。10月28日の黒田総裁の定例記者会見の動画は59分5秒で終わっています。いつもより短いとか今月だけ特別といった主張は事実に反します。この方は「いつも殆ど最後まで当てている」と主張されていますが、他の会見を見ても「質問はあと2人までとさせていただきます」といったアナウンスが入っており、これまでほぼ全員当てていたという主張も事実に反すると思われます。また、この方は「今回も円安に振れて輸入物価高」「円安に振れたじゃないですか」などと言っていましたが、リーク報道後は円高に振れていますから、経済に関する事実認識も妥当でないと思います。なぜこんな喧嘩腰なのか本当に理解に苦しみます。