柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

間違いを認める大切さ

いくら注意していても、間違った意見を言ってしまうことは誰にでもあることです*1。大切なのは間違いに気が付いた後の対応です。当たり前のことですが、きちんとお詫びし、訂正するのが大切だと思います。反対に、間違いがわかった後も、間違っていないと自分の誤りを認めずに変な陰謀論めいた主張をしたり、間違いを放置して訂正しないのは積極的に誤解を広めているのと同じで問題でしょう。特にそれが他人に対する誹謗中傷の場合は猶更です。社会的に大きな影響力のある方がきちんと調べもしないで間違った情報を拡散し、誤りを指摘された後も投稿を撤回せず、そのままにしているのはさすがにどうかと思います。

極右の皆さんの大騒ぎしていた大林ミカ氏の経歴の”疑惑”について、4月8日に自然エネルギー財団の声明が発表されました*2自然エネルギー財団は大林氏の資料に中国国営企業のロゴが含まれた経緯は事務的ミスであるとした上で、大林氏の経歴について一部のネット情報は明らかに虚偽だと指摘しています。

「大林事業局長に関し、SNSの一部で全く事実と異なる情報が流されていますので、以下に履歴を明記しておきます(主な内容は財団のスタッフ紹介ページに記載されており、また国には証明書含め提出し 既に説明済みです)。同氏は、大分県中津市生まれの日本人であり、国籍も日本です。「大林ミカ」は本名(戸籍名)であり、カタカナ表記の「ミカ」も本名です」*3

ロゴの問題には議論があるかもしれませんが、少なくとも大林氏の経歴に関しては自然エネルギー財団の声明は信憑性が高いものとみてよいでしょう。

そもそも、大林氏の国籍が怪しいという話はもともと地方公務員を名乗る匿名アカウント(現在はアカウントごと削除)が投稿していた真偽不明の情報を池田信夫氏などが拡散したことで広まったもので、最初からデマの疑いが濃厚でした。問題の投稿は次のようなものです。

過去に再エネタスクフォースは電力の安定供給を脅かすような提言をしていたから、地方公務員のわいは同タスクフォースのメンバー4人を住基ネットで検索したことがあるんだけど、「大林 ミカ」だけ該当しなかった。経歴・学歴はおろか国籍・本名も不明な人を登用しているヤバさよ、、、解体すべき*4

そういっているこのアカウント自身が「経歴・学歴はおろか国籍・本名も不明な人」で自称公務員に過ぎないのですから、出来の悪いブラックジョークのような話です。こんな情報を鵜呑みにするのはそれこそ「ヤバい」でしょう*5

面白いことに、ネット右翼の皆さんのアカウントは大部分が匿名であるにもかかわらず、自分の気にいらない人を見つけると、すぐ「○○は通名/偽名」などとレッテルを張り、「信用できない」と主張しがちです(その情報ソースの人も今回の場合もそうですが、大抵は匿名です)。矛盾したおかしな話だと思います。

実際には、この匿名アカウントの主張は、気に入らない人間を誰であれスパイだとか国籍がどうのとか騒ぐ極右のいかがわしい言説そのものですし、全く信頼するに足らないものであることは最初から自明でした。こういった真偽不明の情報を拡散した方々は大いに反省していただきたいと思います。

これだけ重大な中傷をしておいて、間違いがわかっても何もしないなどというのはあり得ない対応でしょう*6。黙ったままで投稿を削除もしないというのはデマを広めているのと変わりません。「ロゴの問題は事務的ミスでは済まされない」などと延々と言い続けているのですから、きっと「デマ情報を拡散し今もそのまま放置しているのも単なるミスでは済まされない」はずですよね?

朱鎔基元首相の写真が背後に飾られている大林氏の写真については、極右がさんざん工作員である証拠だなどと煽り、アゴラのような責任ある言論サイトまで「なぜか事務所には中国の朱鎔基元首相の額が。」*7などと騒いでいましたが、自然エネルギー財団の声明は次のように指摘しています。

「ネット上で、大林事業局長の背後に中国の朱鎔基首相の写真が飾ってある写真が取り沙汰されていますが、この写真は、日本記者クラブの喫茶室で共同通信により撮影されたものです。喫茶室には、過去に記者クラブで講演した多くの首相たちの写真が飾られています」*8

この件は撮影者の井田徹治氏がXで明快に説明しており*9、完全に決着がついたといえるでしょう。この期に及んで朱鎔基が云々と言い張るならそれはまさしく陰謀論です。

池田先生は、他人のミスをタイプミスのような些細なミスですら厳しく咎め、しょっちゅう「バカだな」とか「頭のねじが外れている」とか酷い言葉で罵倒されているぐらいですから、当然ご自身が根拠のないデマを拡散したことについても厳しく断罪し、謝罪されるのでしょう。どんな謝罪をされるのか楽しみです*10

人間には誰しも間違いはありますから、間違ったことを書いたり言ったりしたこと自体は咎めるつもりはありませんし、誤りは訂正すれば済むことです。ですが、他人を激しく罵倒しておきながら、間違いがわかっても訂正せず謝罪もしないというのは決して褒められた態度ではないと思います*11。批判を無視して訂正せず、誹謗中傷に近いような発言を繰り返したり、都合の良い情報だけに飛びついたりしていると極右の陰謀論とほとんど区別できなくなってしまいます。

*1:もちろん、以下の文章は自戒も込めて書いています。まず、そもそも誤りのないよう細心の注意を払うのは当然ですが、失敗したときは正直に訂正するのが本当に大切ですね。公に文章を書いている者として初心を忘れずにいたいと思います。

*2:自然エネルギー財団と中国国家電網の関係について | お知らせ | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)

*3:自然エネルギー財団と中国国家電網の関係について | お知らせ | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)

*4:既に削除済みのOkuboを名乗るアカウントの2024年3月23日の投稿

https://twitter.com/chishoin/status/1771516760463991079)。投稿自体は複数の方(例えば、)が保存していて、今も一応見ることができます。

*5:仮にこの投稿内容が本当だったとしたら、これは公務員による個人情報の悪用の自白ですから、実に恐ろしい話で、すぐ取り締まるべき話です。大林氏をたたくことができるなどと喜んでいる場合ではなかったでしょう。もしこのアカウントの主張を真に受けたのであれば、こういう行為自体を厳しく咎めるべきでした。中国共産党が怖いといいながら、中国共産党並みの個人情報の悪用は自分たちに都合が良ければ歓迎してしまうというのは呆れた話です。

*6:池田氏の投稿を確認すると、4月8日以降に大林氏の国籍を問題にした投稿はないようですが、あれだけ騒いでいたのですから、国籍については誤りだったと認めるべきです。仮にもし自然エネルギー財団の声明を疑うというならその根拠を示すべきです。

一部の右翼が既に言っている「国籍を隠すこともできる」「偽造かもしれない」などという主張はもちろん全く説明になっていません。当初の”疑惑”自体がでたらめな信頼するに足りない情報をもとにしたものなのですから、そのような「証拠はないけれども、そうかもしれないだろ!」などというのはナンセンスな言いがかりというべきです。

この手の最初から存在しない架空の疑惑なるものをでっちあげて、それが否定されると「疑惑は深まった」、「…という可能性もある」などと論点をずらしていく手法を右派の方々は左翼の常套手段だ、悪魔の証明を求めるものだなどと主張してさんざん批判していたはずです。実際には、この手の言いがかりは左翼メディアにも右翼メディアにも同じようにみられます。嫌いな人たちは、みんな「反日」で国籍に疑惑があるとか帰化人だなどといい、そうでないなら「証明してみろ」といい、本人がいくら違うといっても「証明になっていない。疑惑は深まった」と言い続けるのは極右の常套手段です。

*7:【更新】疑惑の大林ミカさんが再エネTFを辞任 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp) アゴラ編集部は記事にお詫びと訂正の追記を入れるべきではないでしょうか。こういうことを放置されるのは、よい記事も多く掲載されているだけに極めて残念です

*8:自然エネルギー財団と中国国家電網の関係について | お知らせ | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)

*9:井田徹治氏は、次のように投稿しています。「朱鎔基・元首相の写真は、写真を撮影した日本記者クラブで同氏が講演したことを紹介するために同記者クラブが撮影、掲示しているもので大林さんとは一切、関係がありません。この事実に反する誤った情報が流布されているものも目にします。これも早めに削除されることをお勧めします。」(井田徹治氏のX投稿)。この投稿に添付されている写真もご覧ください。

*10:そういえば、アンミカさんについて「密入国は本人が言ってるんだから事実。」(2023年12月9日の池田信夫氏のXの投稿、この記事を参照)という根拠のない投稿をされていましたけれど、削除したとはいえ謝罪と訂正のお知らせはどうなっているのでしょう?

それに、ここ最近は、水原一平氏の違法賭博事件についても「大谷が送金に関与したことは明らかで、横領の被害者ではない。」「水原が「盗んだ」と供述し、大谷も口裏を合わせた」「こんな大胆な嘘をついて、公判で嘘をつき通せるのか。」などと断言されていましたが、こちらもどうなったのでしょう。無責任にもほどがあるでしょう。

大谷選手の関与を主張していたひろゆき氏の謝罪は誠意がないと批判を浴びましたが、謝罪して訂正しただけまだ立派だと思います。

*11:どんなことにでも意見をもっているのはそれはそれで素晴らしいと思いますが、意見の公表にはそれなりの責任を伴うでしょう。自分の専門に無関係なことについて何でも気軽に発言し断言するのは賢明な態度とは言えないのではないでしょうか。特に他人に対する誹謗中傷に近い強い言葉を使う場合は猶更です。専門的な歴史論争や科学論争あるいは刑事事件といった畑違いの分野についてはまずは専門家の一般的な意見を確認し、軽々に断言したりいい加減な根拠で人を誹謗したりしないようにするのがよいのではないでしょうか。