柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

民主主義を脅かす選挙妨害

衆議院東京15区の補選の選挙妨害が話題になっています。暴力をふるって選挙活動を妨害するのは民主主義を脅かすテロ行為です。興味本位で面白半分にもてはやしたり、自分の嫌いな候補者へのいやがらせなら歓迎したりするのは民主主義を破壊する自殺行為というべきです。組織的で暴力的な選挙運動の妨害は、相手が右派であろうが左派であろうが許されないことです。これは相手がどんな不人気な候補者であろうと変わりません。選挙妨害で危険にさらされているのは特定の候補者の権利だけではなく民主主義そのものです。たとえどんな立派な大義名分を掲げていても、平和的な選挙を妨害する人たちは民主主義の敵であり、強く非難されるべきなのは当然です。

つばさの党の選挙妨害は証拠写真や動画も大量にありますから、もちろん警察は捜査しているでしょうし、当然、選挙後には処罰されるでしょう。ですが、こうした事件が起きるのは、そもそも街頭演説中の政治家は極めて無防備で、危害を加えようとすれば容易にできてしまうからです。安倍元首相の暗殺事件、岸田首相の演説妨害事件など恐ろしい事件が相次ぎ、街頭演説がいかに危険な活動であるかは今回の選挙前から既にわかっていたことです。

最近まで大きな事件がなかったのは単なる僥倖というべきで、一連の事件で街頭演説中の政治家を襲うのが容易であることがわかった以上は、今後も悪意ある人物や本物のテロリストがこうしたセキュリティー上の欠陥を利用しようとするのは目に見えています。この状況を解決しない限り、似たような事件はまた起きるでしょう。もちろん、悪質な選挙妨害を取り締まることは当然で罰則強化もするべきですが、罰則強化には限界がありますし*1警備体制の不備の問題は罰則強化だけでは解決しません*2。こうした事件が相次いでいる以上、安全の問題を解決する具体策がない限り、従来のような街頭演説を中心にした選挙活動を続けるのは無責任というほかありません*3

最もシンプルで合理的な解決策は街頭演説をやめることです。日本のような街頭演説や選挙カーでの名前の連呼が中心の選挙活動は諸外国では一般的ではありません。渡瀬裕哉先生が提言されているように、今後の選挙活動では、街頭演説は自粛し、選挙運動をネット配信や安全が確保できる会場での集会を中心にしたものに変えていく必要があると思います*4選挙カーで名前を連呼したり、中身のないスローガンを連呼したりするだけの現在の在り方よりもその方が政策の議論も深まり、有権者の判断材料も増えるでしょう*5。テロ対策、安全保障の観点からも早急に再発防止策を導入すべきです。

補選は明日が投票日ですが、候補者や支援者の方の安全が保たれ、無事に選挙が終わることを願っています。当たり前のことですけれども、選挙は民主主義の基本です。根拠のないデマや排外主義の陰謀論を流し、意に沿わない相手に嫌がらせを繰り返す団体に所属するような候補者、まして他候補の選挙運動を暴力で妨害する候補者を許してはいけません。万が一、そういった候補者が権力をふるう立場に立てば何をするかは容易に想像できることです。殺し合いでなく、投票で平和的に政治家を選ぶのは文明社会のルールです。いろいろな立場はありますけれども、民主主義を脅かすような候補者には絶対に投票しないことが大切です。民主的で平和な選挙の勝者は全ての有権者です。

*1:特に表現の自由言論の自由との関係上、極端な取り締まりは困難です。

*2:たとえ犯人に厳罰を科しても、大規模なテロで首相や閣僚が暗殺されてしまってからでは遅いでしょう。

*3:この問題は、以前も何度か触れたことがあります。テロは「社会の責任」なのか - 柿埜真吾のブログ (hatenablog.com) テロに断固たる姿勢を - 柿埜真吾のブログ (hatenablog.com)

*4:選挙のプロが緊急提言!「選挙の自由妨害罪」政治家が言わない根本的問題 早稲田大学招聘研究員渡瀬裕哉【救国シンクタンク研究員所見】#東京15区補選 (youtube.com)

*5:街頭演説から会場内の集会に切り替えれば、選挙妨害と言論の自由表現の自由をめぐる微妙な問題も解決できます。街頭での演説をしつこく何度も野次で遮るのは選挙運動を妨害するものだと思いますが(特にそれが明らかに組織的な団体による場合は悪質だと思いますが)、街頭は誰の所有物でもないですから、何を話しても自由ですし、どの程度の妨害なら悪質と判断するのかは難しい問題です。

例えば、演説が聞こえなくなるように大勢で取り囲んで政治家を罵倒し続けるのはどう考えても非常識ですが、たまたま演説している政治家のそばを通った一人の通行人が「××やめろ」と一言つぶやいたぐらいで「選挙妨害だ!」と騒ぐのはおかしいでしょう。グラデーションがあり、どこで線を引くのかは微妙です。候補者の主張を攻撃するプラカードを掲げて、候補者の近くに立つのは選挙妨害にも思えますが、「道のどこに立っていようと自由だろ」と言えばそれもそうですし、その表現の自由を奪うのはおかしいようにも思えます。政治家がその場所を自由に使う権利を持っているわけではありません。公道には仕切りがないわけですし、多くの人は単にそこを通りかかっただけで別に聞きたくて聞いているわけでもないですから、判断はあいまいで微妙なものにならざるをえません。
しかし、こういった微妙な問題は、会場での集会なら基本的にはありません。会場を借りているのは候補者ですし、参加者は集会の規則に同意しているはずです。別に演説を聞きたくなかったというような通りすがりの第三者はいませんし、集会の趣旨に同意せず、ただ単に妨害を意図しているような迷惑集団にはお引き取り願うことが可能です。

ルールを守れない参加者は会場責任者の判断で当然排除できます。映画館の中で実際はそうではないのに「火事だ!」と叫ぶのは言論の自由ではなくただの犯罪であり所有権の侵害です。映画館は、勝手に騒いだり映画を罵倒したりする自称評論家をつまみ出す権利がありますし、講演者は講演会を野次で妨害する自称一般市民を会場から追い出すことができます。そういったことをする人は営業妨害なのですからそうされて当然です。