柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

ヴォルテールの言葉より

「寛容とはなんであるか。それは人類愛の領分である。我々はすべて弱さと過ちから作りあげられている。われわれの愚行を互いに許しあおう。これが自然の第一の掟である。」-ヴォルテール*1

これはフランスの哲学者ヴォルテールの言葉です。宗教上の不寛容を批判する文脈で述べられたものですが、宗教に限らず、全てのことに当てはまりますね。皮肉屋のヴォルテールらしい警句ですが、とても素敵な言葉だと思います*2

近頃では政治的な議論の対立が先鋭化しがちですが、たとえ政治的に意見が違う相手でも意見の違いを許容することは大切です。私たちは互いに対立しあう部族の社会に生きているわけではなく、民主的で自由な社会に生きています。

自分と違う政党の支持者は”日本を滅ぼす国賊”だとか”極右のカルト宗教信者”に見えるかもしれませんが、同じ共通の趣味をもっているかもしれませんし、他の話題では意外に話せる相手かもしれません。宗教が違っても、好きな音楽やスポーツは同じかもしれません。宗教家や政治的デマゴーグは、皆さんを一つのアイデンティティだけに閉じ込めたがるでしょうけれども、そんな人生はつまらないでしょう*3

岸田首相に対するテロ事件はありましたが、幸い死者が出ることはなく、統一地方選・衆参補選は無事に終わりました。応援していた政治家が当選した方もそうでなかった方もいるでしょう。政治家が約束を果たすか、しっかり監視すべきです。今回だめでも次回があります。殺し合いでなく、投票で政治家を選ぶのは文明社会のルールです。民主的で平和な選挙の勝者は全ての有権者です。

*1:ヴォルテール『哲学辞典』,高橋安光訳,法政大学出版局, 1988年,387頁.

*2:ちなみに、「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という言葉は、ヴォルテールの言葉ではなく、実際はヴォルテールの態度を評した別人の言葉です。詳細は例えば以下をご覧ください。I Disapprove of What You Say, But I Will Defend to the Death Your Right to Say It – Quote Investigator®まあ、誰が言ったのであれ、これも良い言葉ですね。

*3:アイデンティティと暴力: 運命は幻想である | アマルティア・セン, 大門 毅, 東郷えりか |本 | 通販 | Amazon