柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

安倍元首相の一周忌に寄せて

7月8日は安倍元首相の一周忌でした。安倍元首相が銃撃されて重体というニュースを見た時はとても信じられませんでした。5月16日に政策提言でお話をさせていただく機会があったばかりでしたから尚更です。ご家族や親しいご友人の方の悲しみはいかばかりかと思うと本当にやり切れない思いです。

安倍元首相は日本経済の再生に強い思いを持っておられました。アベノミクスの成果が実り*1、いよいよ2%インフレの達成が目前に迫っている現在の日本経済の景色を安倍元首相が見ることができないのは本当に残念なことです。

アベノミクスは第一の矢の金融政策以外は様々な障害があり、道半ばに終わったものが少なくありませんが、現時点でも日本経済再生への最良の処方箋であると思います。現在の日本経済の課題は、金融緩和を継続するとともに、実現しなかった積極財政や道半ばに終わった岩盤規制の規制改革を進め、アベノミクスを完遂することです。

私が安倍元首相とお会いした際の経緯は金子洋一先生が書いておられる通りですが、拙速な金融引き締めを避ける必要性、物価水準目標政策についてお話しさせていただきました。かなり専門的な話もしたのですが、理解の速さ、質問の的確さには驚きました。テレビなどでは野党と激しくやりあう姿ばかり映されがちですが、実際は大変穏やかな方で、初対面の私の話を真剣に聞いてくださいました。短い時間でしたが、安倍元首相の経済再生への意気込みには大変感銘を受けました。

安倍元首相は常に学ぶ姿勢を怠らず、日本のためにできることを真摯に考え続けた政治家だったと思います。拉致問題やデフレなど、票にならないからと他の政治家が無関心だった問題でも、安倍元首相はいち早くその重大さを理解し、真剣に取り組みました。東日本大震災の被災地復興や風評被害対策に取り組む姿も尊敬を集めていました。福島の名産品をおいしそうに食べる安倍さんの姿は多くの方が覚えておられるでしょう*2。安倍元首相のこうした姿勢に共感し、尊敬していた方は少なくないと思います。

これは学ぼうとせず官僚のご説明や世間の印象でものを言っているだけの平凡な政治家には決してできないことです。それに、対立を避け、事なかれ主義で通すような政治家であれば、問題を知っても敢えて取り組むことはなかったでしょう。批判されても正しいと信じる政策を訴え続けるのは国民への思いがなければ決してできないことです。日本にとっても、世界にとっても安倍元首相の早すぎる死は大きな損失でした*3

*1:外的要因もあるとはいえ、現在のインフレ率の上昇は金融緩和による人手不足経済の継続も大きな要因です。輸入価格の下落で今後インフレ率はやや低下すると見込まれますが、拙速な引き締めや増税に踏み切らなければ、デフレ完全脱却はすでに視野に入っていると考えられます。

*2:外交努力が実り、日本の農作物の輸入制限措置は殆どの国で撤廃されています。

*3:もちろん毀誉褒貶はあると思いますし、左派の方の中には安倍元首相の歴史観に反発し、批判的な方は多いと思います(言うまでもなく、私自身も安倍元首相の考え方や政策のすべてに賛成であるわけではありません)。しかし、政権の挙げた成果とその思想信条への好悪は区別すべき問題です。安倍内閣が実際にやったことを見ると、ヘイトスピーチ対策法、移民政策、観光政策等、開かれた日本を目指す姿勢が鮮明です。野田政権で最悪だった中国との関係は改善し、韓国とも歴史的合意を結びました。一億総活躍社会を掲げる安倍内閣の下で女性の就業者数は300万人以上増加し、日本の生産年齢人口の女性就業率は米国を超える水準に上昇しました。偏見なしに見れば、いずれも画期的な成果でしょう。安倍元首相は選択的夫婦別姓には慎重でしたが、通称使用の拡大も進めています。もちろんこうした政策はすべて不十分であり、理想からほど遠いという批判はあるのかもしれませんが、それ以前の内閣と比較してどうかという視点を欠いた批判は不公平ですし、殊更に安倍元首相を悪魔化するような批判はバランスに欠けています。安倍元首相は確かに社会のニーズにこたえようとする姿勢を持っていましたし、左派の観点からも評価に値する政策を打ち出していると思いますが、いかがでしょうか。