柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

不毛なレッテル張り(2)

日本では、どういうわけか「金融緩和は新自由主義」、「金融緩和は右派の政策だ」といったマクロ経済政策への奇妙なレッテルを張る人がいます*1。第二次安倍政権の進めたアベノミクスが大胆な金融緩和を中心にした政策だったからだと思いますが、こうした見方は全くの誤解です。マクロ経済政策をそういう右、左の色眼鏡で見るのは非生産的というしかありません。

実際には金融緩和は右派の政策でも左派の政策でも何でもありません。「新自由主義」という言葉自体、定義不明の意味のないレッテルですが、少なくとも、「新自由主義」の代表と考えられているレーガンサッチャーは金融緩和など全くやっていません。それどころか、大インフレに対応して厳しい金融引き締めをやっています。

もちろん、だからといって「金融引き締めは右派の政策」とか「金融引き締めは新自由主義」というわけでもありません。レーガンはボルカーFRB議長の金融引き締めを支持しましたが、そもそもボルカーをFRB議長に指名したのはリベラル派のカーター大統領です。カーターは、ボルカーの金融引き締めを強く支持していました。

日本でインフレ目標を定めたのは安倍政権ですが、世界で最初にインフレ目標を設定したのはニュージーランド労働党の左派政権です。悪魔の「新自由主義」のイデオローグや右翼の政治家が暗躍して、“右翼的な”マクロ経済政策で世界を滅茶苦茶にしているといったお話はドラマとしては面白いでしょうけれども、現実とは何の関係もありません。マクロ経済政策とはそういうものではありません。

「金融緩和は右派か左派か」とか**政策は“反日”なのかどうかとか、そういう発想自体がそもそもナンセンスなのです。マクロ経済政策は単にその時点の経済情勢から必要かどうかが問題なだけで、右派、左派といったイデオロギーとは関係ないのです。

私はアベノミクスのマクロ経済政策を高く評価していますが、全く民族主義者ではありませんし、多様性ある社会を強く支持しています(過去の記事(1)(2)(3)をご参照ください)。「安倍政権で実施された政策を評価するのだからネトウヨだ」というなら、ヘイトスピーチ解消法も安倍政権下でできたのですから、ヘイトスピーチ解消法を支持するのはネトウヨでしょうか?コロナ禍前まで安倍政権下では訪日観光客が大幅に増えましたが、外国からの観光客が増えたことを喜ぶのは排外主義者でネトウヨなのでしょうか?そういう粗雑な発想で議論するのは実に恥ずかしいことです。

*1:逆に「金融緩和は左派の政策だ」という人もいますが、以下に書くようにいずれも妥当な見解とは言えません。