自民党総裁選に比べると盛り上がりに欠けていましたが、9月23日には野党第一党である立憲民主党の代表選があり、野田元首相が勝利しました。正直なところ、有力候補の政治家がこれまでと変わり映えしない顔ぶれの党首選に注目が集まらなかったのはやむを得ないでしょう*1。
野田氏と言えば、首相時代に三党合意で消費税の5%から10%への増税を決めた政治家で、金融緩和に強く反対してきた反アベノミクスの急先鋒です。今回の総裁選の公約で野田氏はさらなる増税を打ち出してはいませんが、減税には明らかに消極的です。出馬会見の際、野田氏は将来ベーシック・サービスを実現する財源に消費税を充てるとし、「安易に減税をするのではなく、現状を維持するというのは基本」だと述べ、消費税減税に否定的な考えを示しました*2。
「ベーシック・サービス」なる用語は曖昧模糊としており人によって使い方もまちまちですが、野田氏は代表選の公約*3で「誰もが必要な時に医療や介護、障がい福祉、⼦育て⽀援など「ベーシックサービス」を受けられる社会を⽬指していく」と述べており*4、決選投票前の演説でも「教育無償化のみならず、医療・介護・障害者福祉などのベーシックサービスを所得制限なくすべて国が供給していく体制」を作ることを訴えていました。要するに、これは政府が恣意的に「ベーシック・サービス」と定めたものを税金で負担して国が管理するという話で、古い社会主義を新しそうなパッケージにしているだけに見えます*5。
当然ながら、こうした政策には相当な非効率の発生が避けられませんし、本気で実現する気ならば莫大な財源が必要です*6。「無償化」というと聞こえが良いですが、「政府のお金」などというものはありません。「無償化」とは「税負担化」であり、サービスの利用者ではなく納税者が負担するということです。当然ですが、無償にすればこれまでよりも利用量が大幅に増えることを想定すべきです。社会保障費が今後さらに膨張していくことが予想される中で*7、消費税を財源にするというなら当然、さらなる消費税増税が不可避であるはずです。
野田氏の公約には「財源無視の「思いつき」を羅列しても、将来への真の安⼼はもたらされない」とあるので、当然、責任ある立派な政治家である野田氏はこういう政策を実現するために将来は大増税が必要になると考えておられるのでしょう。なるほど、これでは減税などもってのほかです。税金は政治家が”責任を持って”使うべきで「安易に減税をする」など絶対にあってはならないのでしょう*8。
野田氏の公約には、「格差を是正して消費を活性化し、その⽀えとなる「強い経済」を取り戻す」ことや「教育の無償化と将来を⾒据えた教育環境の整備」、「強い経済」を作るための将来投資の加速」などが謳われていますから、そのためにも当然財源が必要です。野田氏は決して「財源無視の「思い付き」」を言う人ではありませんから、野田氏はもちろん、きちんとどうやって財源を手に入れるか考えているはずです(当然ですが増税でしょう)。そのロジックは正直よくわかりませんが、野田氏は「安易に減税をする」と「強い経済」は実現できないと確信しておられるのでしょう。
冗談はさておき、野田氏のビジョンからは、はっきり言って、さらなる大増税という未来しか思い浮かびません*9。野田氏は金融緩和にも相変わらず否定的ですが、減税もせずに利上げ路線で、社会主義めいた政策を進めて、一体どうやって「強い経済」が実現できるのでしょうか。自民党総裁選もまるで誰が一番悪い税制や規制を提案できるか競い合っているかのような有様ですが*10、野党第一党である立憲民主党も減税に消極的な姿勢なのは非常に残念です*11。
もしこのままの路線で行くなら、仮に次の選挙で政権交代できても、経済政策の失敗からすぐに野党に逆戻りするはめになるでしょう。第二次安倍政権がなぜ長期政権を維持できたかと言えば、消費税増税という失敗はありましたが、貿易協定や規制改革で一定の成果を上げ、何より大胆な金融緩和により景気回復に大きな実績があったからです。立憲民主党には過去の失敗を反省しアベノミクスの成功と失敗から学ぶべきことは学び、より現実的な経済政策を掲げてほしいと思います。
*1:自民党のスキャンダルもあったとはいえ、それなりに党勢を立て直した現代表の泉健太氏が2位にすらなれずに敗退したのは傍目から見て不可解でしたし、内容の是非はともかくとして、野田氏や枝野氏が殆ど説明もなしに安保政策等の党の根幹にかかわる政策について過去の立場をあっさり変更したことには疑問を感じました。
*2:<詳報>野田佳彦元首相「安易な消費税減税しない」 共産党とは「一緒に政権担えない」 立民代表選に出馬表明:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
*3:まあ、民主党政権時代に消費増税しないと言って選挙に勝ちながら増税した過去がありますから、公約はそれほどあてにならないかもしれませんが。
*4:政権交代前夜 ~さあ共に、この国を背負って立とう~|衆議院議員 野田佳彦 立憲民主党 代表選特設サイト (nodayoshi.jp)
*5:ちなみに、ベーシック・サービスは立憲民主党の公約でもあります。立憲民主党の2022年選挙公約(立憲民主党 | 持続可能な社会ビジョン創造委員会 | 各論1 すべての人に安心のベーシック・サービス (cdp-japan.jp))には「暮らしの安心を保障するのは、医療、介護、教育、保育、障がい者福祉、住宅などのベーシック・サービス(現物給付)」とあり、「ベーシック・サービスの無償化や自己負担軽減」が謳われています。社会保障サービスの自己負担引き上げ反対も明記されています。「所得の多寡によって利用できるベーシック・サービスに差を設けないことが重要」とあるので、国が定めた画一的な一律のサービスを想定していることもわかります。もっとも、公約によれば、住宅や教育も「ベーシックサービス」だそうですけれども、所得で差異がないとは一体どうするつもりでしょうか?例えば、全員同じような家に住み(豪邸?それともウサギ小屋?)、誰もが東大に行けるようにすべきだということでしょうか?最低限の水準以上のサービス提供を禁じるつもりでしょうか?文字通りとるとこれは相当おかしな非現実的なことを言っています。まあ、おそらく具体策はこれから決めるのでしょう。基本的に野田氏の目指しているものもこれと大差ないと考えてよいでしょう。
*6:弱者を助けたいなら、特定のサービス(弱者が実際に使うかどうかもわからず好みに合うかもわからない)を国が画一的に無償で現物支給するなどという非効率な方法ではなく、負の所得税のような低所得者に現金を支給する方が遥かに望ましい政策です。
*7:もちろん、自己負担率を引き上げたり、保険適用外の多様なサービスの提供を認めれば話は変わってきますが、立憲民主党は自己負担引き上げを否定しサービスは一律であるべきだと主張しているのですから、社会保障費の膨張には余計に歯止めがかからないでしょう。
*8:もともとその税金は納税者が懸命に稼いだ収入から払われたものですが。
*9:野田氏によれば、それが「真の安心」につながるというのですが、そうは思えません。
*10:ついでに申し上げると、いまのところ大接戦です。有力候補についてだけみると、①矢が一本足りないアベノミクスか、②改革なき小泉改革か、③反アベノミクス(金融引き締め、大増税、規制強化)かの三択ですが、どれも積極的に支持する気にはなれません。経済政策についていえば最後の選択肢は一番あり得ないですが、他もかなり微妙です。
*11:なお、念のため書きますが、私は特定政党をやたらに応援したり目の敵にしたりする趣味はありません。立憲民主党にも頑張ってほしいのでこういうことを書いているのです。立憲民主党のマクロ経済政策の方針には反対ですが、党内にはマクロ経済政策でも近い考え方の議員もいますし、地方議会では宿泊税反対等で頑張っている方は高く評価しています。別に党派的にどうこう言いたいわけではないので誤解のないようにお願いします。私はアベノミクスを評価する立場なので変なレッテルを張る方がいますが、アベノミクスの評価は経済政策への評価であって、私自身は別に特に右派ではありません。例えば、選択的夫婦別姓や同性婚、外国人の人権問題等で私がどういう立場かはこのブログの読者はご存じでしょう。私が民主党政権の3年間を評価しないのは、三年も政権にいたにもかかわらず経済政策は失政ばかりで社会政策でもリベラルな政策を何も実現できなかったからです。