先日の私のブログ記事「ミルトン・フリードマンのアドバイス」を日本維新の会の音喜多駿政調会長に取り上げていただきました。
〉私はどんな状況でもどんな理由であれ可能なら常に減税に賛成だ。なぜなら大きな問題は税金ではなく政府支出だと考えるからだ。… https://t.co/JnfPEStcu1
— おときた駿(日本維新の会 政調会長・衆議院東京1区支部長) (@otokita) 2024年9月29日
ご紹介、大変ありがとうございます!他の主要政党が減税に消極的な中で、国民負担軽減を掲げる減税政党があるのは大変心強いことです。
日経平均は大幅に下落。金融所得課税を表明していることに加えて、石破総裁が防衛増税・子育て支援金での社会保険料増という路線を引き継ぐなら、マーケットが見放すのも仕方ない。
— おときた駿(日本維新の会 政調会長・衆議院東京1区支部長) (@otokita) 2024年9月30日
いま求められているのは、成長のための減税と社会保険料の負担軽減。右肩上がりの日本を創る。維新が対立軸を示す。
音喜多先生のコメントに対して立憲民主党の米山隆一先生からもコメントをいただきましたので、簡単ですがお返事させていただきたいと思います。
1970年代〜2000年代の頃に流行ったフリードマンの言葉。それは1970年代の国家資本主義へのアンチテーゼであって、現在の日本の経済政策に当てはまることは限られると思います。維新は未だそういう考え方を信奉していると言うのなら、それはそうなのでしょうが。 https://t.co/1zgNXLiIC7
— 米山 隆一 (@RyuichiYoneyama) 2024年9月29日
ご指摘感謝いたします。日本の国民負担率(国民所得に対する税負担と社会保障負担の割合)は以下の通りです。国民負担率は1970年度には24.3%に過ぎませんでしたが、2024年度には45.1%に達する見込みです*1。音喜多先生の引用されたフリードマンの言葉は現代にこそむしろ当てはまるのではないかと思います*2。
ご指摘のような「国家資本主義」の時代は決して過去のものではありません。通念とは反対に、日本では小泉改革以降も規制の数はむしろ増え続けています*3。ライドシェアもできずドローンもろくに飛ばせない*4、電波オークションもない日本はむしろ世界の規制改革の潮流から取り残されています。
先の自民党総裁選でも各候補は思い付きで新しく企業負担を増やす政策を並べていましたが、推計によれば政府規制や各種ルールに対応するための時間は既に労働時間全体の20%以上に達しており*5、無視できない負担です。もちろん必要な規制はあるでしょうが、デジタル化や不合理な規制の撤廃を進め、規制遵守コストを少しでも減らすことは日本経済の生産性向上のためにも豊かで便利な生活のためにも不可欠です。
規制改革や減税は流行遅れになったりするようなものではなく時代を超えたものです。不便だったり時代に合わなかったりする規制を変えていくことは常に必要ですし、ドローンやライドシェア、自動運転等が典型ですが、新しい技術が出てきているのに古い規制をそのままにすれば新産業も育ちません。規制には不断の見直しが必要です。同様に、国民の税負担を少しでも軽くするのはどんな時代かに関わらず政治の務めであると思います。規制や税金はたとえ必要だとしても国民の自由を縛るものであり、権力の命令であることに変わりありません。自由な社会を守っていくためには可能な限り規制を減らし税負担を減らすべきなのは当然ではないでしょうか*6。
なお、規制改革は日本の左派リベラル派の間ではなぜか大変評判が悪いようですが*7、これは不幸なことです。規制改革を「新自由主義」で悪だといった抽象的言葉で非難するのではなく、オンライン診療や市販薬のネット販売解禁、押印/対面規制廃止等を具体的に考えれば規制改革が必要不可欠で社会を便利にするものであることに気が付くはずです。例えば、選択的夫婦別姓や同性婚、ピルや緊急避妊薬(アフターピル)販売の欧米並みの規制緩和などは女性の人権や性的マイノリティの人権を守る重要な政策ですが、やはりこれも規制改革に他なりません。規制改革にはとりわけ右派的なところなど全くないのです。1980年代のニュージーランドや2000年代のドイツで大胆な規制改革を進めたのはむしろ左派政党でしたし、米国の航空産業や運送業等の規制改革を始めたのは民主党のカーター大統領です*8。社会分野での大胆な規制改革はしがらみにとらわれた古い自民党には困難ですから、ここはリベラルな野党に強く期待しておりますし、頑張っていただきたいと思っています*9。
優れた古典が常にそうであるように、フリードマンの洞察からは今も学ぶべきものは多いと思います。ぜひ与野党が競い合って国民負担を減らす建設的な提案を出し、自由で多様性ある社会を目指して競争していただきたいと思っております。
*1:なお、国民負担率についてはこの計算方式に議論があるのは事実ですが、GDPで負担率を図る等の他の方法で見た場合でも、1970年代より負担率が上昇している姿に変わりはありません。
*2:コメントいただいた私の記事はフリードマンの過去の発言の紹介が中心ですが、フリードマンの主張はかなり普遍的な指摘であり、現代でも支持者の多い見解の一つです(これは記事の脚注で紹介しております)。減税や規制改革は決して過去の話ではなく今も様々な研究が進んでいる分野です。私のブログでも減税政策の最近の研究も紹介しております。
*3:例えば、許認可等の根拠条項等数は、小泉政権発足以前で統計を取ることが可能な1999年の時点で11581件(このうち許可、認可、承認等の強い規制4477件)でしたが、2017年には15475 件(強い規制4937件)まで増加しています(総務省|行政評価|許認可等の統一的把握結果 (soumu.go.jp))。日本の規制は1970年代よりも現在の方が軽くなったものもありますが、逆に増えているものもあり、全体としてはむしろ増加している可能性が高いと考えられます。
*4:一応、”日本型”ライドシェアはありますが、”日本型”はタクシー会社の一般アルバイトに過ぎず、世界標準のライドシェアとは言えません。実態に合わない目視規制をはじめドローンの利用の規制も厳しすぎると考えられます。
*5:規制のコンプライアンス・コストと生産性 (rieti.go.jp)
*6:政治家の仕事は思い付きの成長戦略を立て自分のお気に入りの産業に税金をつぎ込むことではありません。
*7:米山先生や立憲民主党がそう主張していると言っているわけではありません。一般論として左派論壇ではそうした傾向があるという意味です(最近では右派論壇もそうなってきています)。一応ですが、誤解のないよう。
*8:簡単ですが、例えば、以下をご参照ください。Repost: Much of what you've heard about Carter and Reagan is wrong (noahpinion.blog) Jimmy Carter Was a Better President than You Think (fee.org)
*9:私は単に好きなことを書いているだけの学者ですので、別に特定政党を応援しているわけではなく、基本的に政策の方向性が一致すれば誰でも応援しています。立憲民主党にも(他の党でも)減税や規制改革で頑張っていただけたら大変嬉しく思っておりますので是非ご検討いただければ幸いです。