猛暑が続きますが、皆さんはお元気でお過ごしでしょうか?日銀の利上げと米国の景気後退の兆候で株価が大暴落していますから株式投資家の皆さんはあまり元気ではないかもしれませんが、私は短期的な株価の変動についてあれこれ書くのは好きではありません(笑)*1。今日は軽い話題を書きましょう。
日本版ライドシェアが「バージョンアップ」して、気温が35度以上だと台数の上限が引き上げられるのだそうです。
酷暑が予報される時間帯やイベント開催時における輸送力不足解消の方策を公表します。本年4月にスタートした日本版ライドシェアについて、気温35度以上が予報される時間帯やイベント開催時のタクシー利用者の増加に対応できるようバージョンアップします*2。
ライドシェア、また規制緩和 気温35度以上で台数の上限引き上げ:朝日新聞デジタル (asahi.com)
どうやら暑さにやられたようですね。冗談はともかく、国土交通省は輸送力不足を解消したいなら、事細かに台数を規制するよりももっとほかにやるべきことがあるでしょう。国民は子供ではないのですから、「猛暑の時はライドシェアを使いたいだろう」とか「雨が降っているときは少し台数が多い方がいい」などと国土交通省がいちいちあれこれ心配をするには及びません。猛暑の時にどれだけ需要があるか、雨天の時はどうか、花火大会の日はどうなのか等、計画経済ではないのですし、わかるわけがないことを国土交通省が考えても仕方ないでしょう。誰だって自分が利用したいときに利用する判断力を持っていますし、そうできるようにすればいいだけのことです(ほかの産業ではそうなっているのですから!)。誰もが好きな時に利用したいときにライドシェアを利用できるようにすべきです。
自由市場経済では、需要と供給を調節するのは価格メカニズムです。海外の普通のライドシェアではそうなっていますが、混雑時には価格が上昇し、より多くのドライバーが乗客を輸送するインセンティブを与えられ、供給不足は解消されます*3。政府の指図などなくても見えざる手がうまく仕事をしてくれるのです。
ところが、日本では、タクシー産業は市場メカニズムとは大きく異なる統制経済の仕組みで運営されてきました。エリアごとに国土交通省が参入を制限し、料金も政府の許可制です。参入退出も価格メカニズムもないわけです。国土交通省は「タクシーの需要を供給が上回っては大変だから」と、タクシーの台数を制限する”需給調整”を実施してきました*4。もちろん、一般ドライバーの有償の乗客輸送は認められておらず、今や世界中で認められているライドシェアもずっと禁止されてきました*5。今更言うまでもないはずですが、統制経済が市場経済よりもうまくいったためしなどありません。消費者の需要にこたえる消費者主権の仕組みはもちろん市場経済です。人手不足の深刻化に対処できずタクシー産業が機能不全に陥ってきたことは当然と言えるでしょう。
観光地のタクシー産業の人手不足の深刻化等で規制緩和の声がようやく高まり、今年4月から”日本版ライドシェア”が実施されることになりましたが、この”日本版ライドシェア”は羊頭狗肉というしかない代物です。自家用車を利用して一般ドライバーが有償で乗客を輸送するのは通常のライドシェアと同じですが、運行主体はタクシー事業者で、運賃はタクシーと同額です。しかも、タクシーが不足する曜日や時間帯で一部地域に限って*6、台数を限定して導入するという露骨に競争を制限する意図が明確です。要するにタクシー産業の既得権を犯さず、競争しないなら認めてやってもいいということなのでしょうが、あまりに消費者軽視の発想です。これを”ライドシェア”と呼ぶのは誇大広告というべきで、より正確にはタクシー会社の一般人アルバイト採用制度とでも呼んだ方が良いでしょう。
価格も数量も統制しておいて、タクシー会社の既得権を犯さないようにしながらライドシェアをやるというでは、供給不足が解消されないのも当たり前です。市場メカニズムの手足を縛って動けないようにしておいて、何故歩かないんだ!と言われても、それは期待する方が間違っています。
諸外国のライドシェアとは異なる既得権保護の仕組みを”日本版”などと呼ぶのは全然”クール”ではないですし、それこそ日本のブランドイメージを毀損するだけですから一刻も早くやめるべきです。この機会に普通のライドシェアを導入し、暑さも吹き飛ばす大胆な規制改革を!
*1:私は自分が市場を出し抜けるほど賢いとはうぬぼれていませんので軽々しい予測はしませんし、株式市場の短期の変動で日銀を採点したり慌てて”答え合わせ”したりする趣味もありません。
*2:報道発表資料:酷暑・イベント開催時の一時的な輸送力不足を解消します!<br>~既存制度の柔軟な運用と日本版ライドシェアのバージョンアップ~ - 国土交通省 (mlit.go.jp)
*3:「”極端な”市場原理主義はダメ」でしょうか?いや、圧倒的多数の産業はその市場メカニズムに従っていてうまくやっています。他ではうまくいくことがなぜダメなのか、大多数の人が守っているルールを破ることがなぜ必要なのか説明責任は反市場原理主義者の方にあるでしょう。何故それが悪いのかを説明することなく”全て”を市場に任せるべきではないとか”極端”はよくないなどと主張するのは意味がありません。どんな市場の失敗があるのか、仮に市場の失敗があるとして政府が介入することが状況を改善する根拠があるのかをきちんと示すべきです。
*4:需給調整規制は2002年に一時撤廃されましたが、2009年に事実上復活しその後さらに強化されて現在に至っています。需要と供給が釣り合うかどうかなど全く余計な心配です。
*5:国家戦略特区の限定的な解禁を除きます。これはタクシー産業の既得権を犯さない過疎地での限定的な運用です。
*6:「不足している」というのは客観的な判断ではもちろんなく、国土交通省がそう判断するという意味です。しかし、不足しているかどうかを判断するのは政府の役人ではなく、当然、消費者であるべきではないでしょうか?