柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

陰謀論の無意味さ

陰謀論や人種差別に熱中する方々を見ていて、いつも疑問に思えてならないのは、それがあなたの人生に一体何の役に立つのですかということです。

例えば、プーチン大統領やらトランプ前大統領やら何とかやらが正義の味方だとか光の戦士とかだとして、だからどうしたのでしょうか。DSやらなにやらについて込み入ったプロットを覚えるのは結構ですけれど、ここは日本なのですから、それは騒いでいる方々の生活に特に重大な関係はないでしょうし、日本に住む私たちがどうにかできる話ではないでしょう。少なくとも、YoutubeやXを眺めているだけで重大な世界の秘密を知ったり世界を救ったりできるとは到底思えません。外国の作家とか歌手とかに夢中になるなら大いに理解できますが、外国の政治家にどうしてそこまで肩入れできるのでしょうか。それが本当だとして、それで、だからどうだというのでしょうか*1

まあ、死んだと思われた誰それが実は生きていたり、***氏が実はゴムでできていたり爬虫類だったりしたら*2、それはまあまあ面白いですが、そんな出来の悪い陰謀論を読むより、SF映画でも見た方がよほどよいと思います。

同様に、***人は全員邪悪で化け物みたいな人たちだなどという信じがたい馬鹿げた話を真面目に信じるよりは、ゾンビ映画でも見た方がいいのではないでしょうか。どちらにせよフィクションなんですから、もっと面白い方を見るべきでしょう。半端な陰謀論よりずっと洗練されていて作りこまれた設定の名作はたくさんあるんですから、その方が楽しいですし害がありません。

韓国や中国にルーツを持つ方が日本で活躍するのを妨害したら、それが何の得になるんでしょうか。それで生活が良くなるでしょうか。どん兵衛を食べるのを我慢し、高千穂には絶対に観光に行かないことにしたら豊かな老後を過ごすことができるんでしょうか。毎日のように外国人への憎悪に取りつかれてYoutubeやらXやらにかじりついている人生が幸福でしょうか。

マイノリティの方がひどい目に遭ったりするようなことが起きたら、その分だけマジョリティが利益を受けるという発想は出来の悪い社会主義的な発想です*3。韓国あるいは中国の方が豊かで幸せになると日本人はその分だけ不幸になるなんてそんな馬鹿な話はありません。そういうゼロサム的な発想は社会を貧しくし、誰もが不幸になるだけの最悪の考え方です*4

どうしても政治がやりたいなら*5、世界の陰謀とやらと戦おうとしたり、しょうもないCMやらミスコンのバッシングに夢中になったりせずに、まずは身近な地方自治体の予算の無駄を探したり減税を訴えたりするとか、自分ができる身の丈に合った地道なことから始めるべきでしょう。

陰謀論や極右の言説に熱中するのはたぶんそれはそれで孤独な人生の慰めや生きがいになるのでしょうけれど、同じ楽しみは芸能人に熱中したり趣味に熱中しても手に入ります。その方が誰も傷つけないですし、ずっと楽しいでしょう。それだと「日本のために高尚な活動をしている」という高揚感は得られないかもしれませんけれど、実のところ、陰謀論者や極右が重要だと騒いでいる問題は、たとえ本当だとしても(ほぼ全て完全な出鱈目ですけれども、それはともかく)、日本の未来どころか、私たちの生活にも人生にも本当は殆ど何の関係もないはずの問題です*6。まあ、既に陰謀論のかなたに行ってしまっている方にはこんなことを書いても無駄かもしれませんが…

*1:常日頃は「権力を疑え」とか「政府は信用できない」とか言いながら、どこの誰ともわからない匿名のXやYoutubeの情報を信じたり、トランプ前大統領やプーチン大統領の発言ならすぐ鵜呑みにするというのは全くいただけない姿勢です。「自国政府は信じないが、ロシア政府の情報なら信じる」というのは「反権力」ではなく単に「ロシアの御用学者」だというだけでしょう。愛国者でも保守でもリバタリアンでもリベラルでも何でも結構ですが、外国の独裁的政治家のプロパガンダを頼まれもしないのに懸命に伝える陰謀論者になるよりはもう少しましな生き方がありそうなものです。

*2:おそらく陰謀論に詳しくない方は一体何を言っているか意味が分からないと思いますが、そんな荒唐無稽な話を真面目に信じる陰謀論者もいるんです。

*3:最近では、極右の方々は、LGBTの権利活動家やら米国民主党やらネオコンやらをやたらと共産主義者扱いしていますが、そういう不正確な言葉遣いには賛成できません。少なくとも、歴史的な共産主義LGBTを犯罪者扱いし米国のグローバリズムとやらと戦っていたのですから、極右の皆さんの同志ではあっても敵ではありません。例えば、ベラルーシのルカシェンコ大統領はスターリンレーニンを尊敬していると公言していますが、反LGBTの急先鋒ですし、極右の大好きなロシアのウクライナ戦争を支持しています。意外と極右の皆さんとは話が合うのではありませんか?嫌いだからってなんでも見境なしに「共産主義」と呼ぶのはおかしいですし、食わず嫌いは良くないですよ?

*4:多くの社会主義者は金持ちが豊かなのは貧しい人を搾取しているからだと信じ、金持ちを貧乏にしたがります。一方、国粋主義者は外国人が成功すれば日本人が貧しくなると信じ、外国人を貶めたり外国の経済危機を喜んだりしています(実際は外国の経済危機は日本の貿易を縮小させ、日本にもマイナスになる場合が圧倒的なのですが)。外国人のせいにするか、金持ちのせいにするかという違いはあっても、どちらの世界観も決まった大きさのパイの取り合いとして世界をとらえている点では大して変わりません。

*5:なお、私自身は他の社会に役立つ活動と比べて、とりわけ政治が社会をよくする活動だとも高尚な活動だとも思いません。例えば、顧客が喜ぶ優れた製品を開発する企業家は、無意味な政策を立案し、新たな規制を作る政治家よりもよほど社会の役に立っているでしょう。政治をやっている、政治に関心があるというだけで他人より自分が偉いと思って見下すような方とは個人的には関わりたくないですね。

*6:思想以前の問題として、CMやらミスコンやら実に些細なことの攻撃に本気で全力投球されているのを見ると、天下国家を論じる前にまず物事の重要性の程度を判定する最低限の能力がないと何もできませんよと言いたくなります。