柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

「資本主義のど真ん中」

以下のようなポストを見かけました。19.2万回表示されていて、1663件も「いいね」がついていますから、それなりに読まれているのでしょう。

奴隷関連の調べ物を。ここ数年で一気に増えつつある文献の頁を繰れば繰るほど、資本主義のど真ん中に奴隷制が鎮座していることがわかります。ましてやグローバル資本主義ともなれば、植民地主義も加わって、人権などどこ吹く風。現代の奴隷制は「ウォッシュ」によって巧みに不可視可されています。*1

少々資本主義が気の毒ですので、悪の資本主義の代弁者のブルジョワ階級の手先として、一言申し上げます。

以下の図は、産業革命期以降の奴隷制を法的に認めている国の数の推移です。

出所:Legal Slavery v1 — Documentation | Gapminder

奴隷制を廃止した国は英国やフランスなど資本主義先進国が先で、今も奴隷制が残っているのはグローバル化から取り残された最貧国です。最も深刻なのは北朝鮮エリトリアモーリタニアといった地域ですが*2北朝鮮エリトリアマルクス主義政党の流れをくむ政党が支配する一党独裁国家です。

もちろん、だからといって、こういった事実を根拠に奴隷制と資本主義がつながっていないというのは誤りです。「現代の奴隷制は「ウォッシュ」によって巧みに不可視化されて」いるそうですから、たぶん真の奴隷制は資本主義とともに激増しているのでしょう*3。もっとも、残念ながら奴隷制は巧みに不可視化されていますので、私は皆さんにその証拠を何もお見せすることはできません。「資本主義のど真ん中に奴隷制が鎮座している」かどうかは読者の判断に任せます*4

誤解のないよう付け加えますが、もちろん、現代の社会にも人身売買など様々な人権問題が存在するのは事実ですし、私はそうした問題が重要ではないとは全く思いません。しかし、何でも資本主義の責任にするのはフェアではないのではないでしょうか。

*1:白岩英樹氏の2023年12月16日のポストhttps://twitter.com/s_andersonian/status/1735958260791095507

*2:Global Slavery Index | Walk Free

*3:資本主義以前、奴隷を剣闘士の試合で殺していたローマ帝国や奴隷狩りを大規模に実施していたオスマン帝国などは牧歌的で素晴らしい国だった可能性があり得ます。ユダヤ人を強制労働させ衰弱すれば殺害していたナチス・ドイツ、国民を強制収容所で労働させたソ連北朝鮮など社会主義国よりも、資本主義の「不可視化された」奴隷制はもっと恐ろしいということも理論上はあり得ます。

とはいえ、産業革命以来、世界の平均寿命は30歳から70歳以上に上昇し、絶対的貧困率は90%から9%まで低下していますから、資本主義の「不可視化された」奴隷制はそう悪くないものではないでしょうか?

*4:が、私は個人的には、資本主義以前の世界に戻ることも、ポスト資本主義の世界に生きることも望みません。