柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

消費停滞への自然な処方箋

5月8日、新型コロナウイルス感染症感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ5類に移行しました。ひとまずコロナ禍に対する緊急対応は終了し、経済は平常モードに戻ることになりそうです。コロナを恐れた自粛の行き過ぎが消費を冷やしてきた中で、5類移行が消費者の意識の変化につながるプラス面は大きいと思います。宴会や観光旅行がまた盛んになり、普通の生活が戻ってくるのはうれしいことですよね。

しかし、コロナ禍が終わったからといって、日本経済の急激な回復を期待することは難しいでしょう。図はコロナ禍前のピークを100とした実質民間最終消費支出の推移を見たものです。欧米がコロナ禍直前まで順調に消費を増やし、現在はコロナ前を回復している(米国の場合は消費が旺盛過ぎてインフレが過熱している)のに対して、日本はコロナ禍前から消費が停滞していますし、今後もV字回復とはいきそうにありません。

出所:内閣府, BEA, OECD

日本の実質民間最終消費支出のピークは2014年4月の消費税増税前の2014年第1四半期で、それ以降、落ち込んだまま回復していません。2019年10月の再増税後、2019年第4四半期からさらに落ち込み、そこにコロナ禍が来たわけです。2020年第2四半期のコロナ禍に伴う緊急事態宣言発出で経済活動が大きく落ち込んだ後、一応は回復はしていますが、欧米諸国に比べると思わしくありません。この原因を考えるには何も優秀なエコノミストである必要はなさそうです。他にもさまざまな要因が影響したのだという反論はあるでしょうしそれは正しいですが*1、それにしても消費停滞の容疑者ナンバーワンが消費税増税であることは明らかでしょう。消費税増税をはじめとする増税による可処分所得の低迷を考えれば消費低迷はパズルではありません。コロナ禍が去ったからといって、税金は下がってくれません。日本経済の停滞は続きそうだと考えるのが自然です。

政府にできることは何でしょうか。企業に賃上げを要請することでしょうか?新たな成長戦略を立案し、成長産業を支援することでしょうか?DX投資推進とかグリーン投資推進をやることでしょうか?そういった効果の疑わしいやり方よりももっと簡単ですぐに効果がある方法があるはずです。税金を上げて経済が停滞したのだから税金を下げるのが自然ではないでしょうか?

*1:例えば社会保険料の引き上げ(いずれにせよ増税)は消費税増税後の消費の低迷を説明する重要な要因でしょう。他にもいろいろな要因を挙げることは可能です。ですが、消費税増税の影響を否定するのは難しいのではないでしょうか。