柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

リカードの手紙から

「他の論争者と同様に、多くの討論を重ねたのち、我々はそれぞれ自分の意見を維持しています。しかし、これらの討論は決して我々の友情に影響するものではありません。私はもしあなたが私の意見に同意してくださっていたとしてもあなたに対して今以上に好意を持ちはしないでしょう。」-リカードからマルサスへの手紙 1823年8月31日*1

これは、古典派の偉大な経済学者デーヴィッド・リカードが死の直前*2にライバルだった経済学者ロバート・マルサス宛に出した手紙です。リカード自由貿易主義者だったのに対し、マルサス保護主義者で、この2人は多くの点で意見を異にしていましたが、2人は生涯にわたって親しい友人同士でした。リカードは、マルサスだけでなく、彼とは大きく意見の異なる思想家とも進んで意見を交換していました。なかなか現実にはうまくいかないものですが、こういう姿勢はとても大事ですね。

残念なことに、昨今では論争と人格攻撃の区別がつかない方が多いのですが、経済論争は派閥抗争でも政治的駆け引きでもありません。経済学者同士の意見の違いは価値観の違いによる場合もありますが、大部分は実証的な判断の相違です。経済分析の妥当性をその人が何派かとか人格的に立派な人物かどうかなどで判断しようとするのは間違いですし、意見の違う相手は道徳的に劣っているとか悪であるとか決めつけるべきでもありません。

*1:リカードウ全集 Ⅸ』,425ページ(原著の382ページ)

*2:リカードは1823年9月11日に死去しています。今年はリカード没後200周年の記念の年です。