柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

石橋湛山の経済政策思想

2023年は、アダム・スミス生誕300周年、リカード没後200周年、ジョン・スチュアート・ミルの没後150周年という経済学にとって記念すべき年でしたが、日本の経済学者では、石橋湛山の没後50周年でもありました。

石橋湛山は、戦前は東洋経済新報社のジャーナリストとして植民地放棄論やデフレ的金融政策反対の論陣を張り、戦後は政治家として日本の復興に尽くした偉大な思想家・経済学者です。私自身も12月14日には立正大学で開かれたシンポジウムに参加し、原田泰先生のご講演「石橋湛山の経済政策思想 経済分析の帰結としての自由主義、民主主義、平和主義」のコメンテーターを務めさせていただきました。石橋湛山のような真のリベラルの思想がいま求められていると改めて感じました*1

帝国主義全盛だった時代に、石橋湛山植民地主義ではなく自由貿易による共存共栄が日本を豊かにする道だと主張しましたが、彼の主張は戦後日本の高度成長で正に実現しました。日本はすべての植民地を失ってむしろ遥かに豊かになりましたし、戦前も植民地獲得の戦争など必要なかったのです。石橋湛山の平和主義は空想的なものではなく、経済学的に合理的な基礎を持ったものでした。

昨今のリベラルを称する人々は再分配を重視し、成長を軽視しがちですが、石橋湛山は、経済的豊かさは、貧しい人を救うためにも、民主主義を守るためにも不可欠なものであることを理解していました。豊かになるよりも再分配が重要だという意見に対して、石橋湛山は次のように書いています。

「分配大いに語るべし。しかし、貧は、これを分配しても貧である。民生は、分配しうる富が豊かにして、初めて豊かなるをうる。まず、生産を起こさずして、何を、われわれは消費し得よう。」*2

昨今の脱成長論者は、石橋湛山自由主義思想から大いに学ぶべき点があるのではないでしょうか。

*1:なお、原田先生のご講演の内容は、和田みき子先生との共著『石橋湛山の経済政策思想』に基づいています。素晴らしい本ですので、こちらも是非お手に取っていただければ幸いです。

*2:石橋湛山『湛山回想』岩波文庫