柿埜真吾のブログ

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植田日銀初の金融政策決定会合

4月27・28日には植田総裁の下で最初の金融政策決定会合が開かれました。報道は相変わらずで「政策修正へ」という先走った見方が多いようですが、今回の会合では、植田総裁はむしろ黒田前総裁の路線を引き継ぐことを明示したといえるでしょう。

今回の金融政策決定会合の意義を理解するには、憶測の多いメディアの報道よりも市場の評価を見た方がおそらくより参考になるでしょう。市場が今回の決定をどう評価したかは日経平均が400円近く値上がりし、年初来高値を更新したことからも十分明らかです。為替も1ドル133円台後半だったのが136円台となり円安に振れています。10年物国債金利も0.48%だったのが0.4%を割って0.38%へと低下しました。市場は新執行部の方針を緩和継続と読んでいるといえるでしょう。実際、これは正しい判断だと思います。

今回の公表文から政策金利フォワドガイダンスが削除されたことが取りざたされていますが、これが近い将来の利上げを意味するとみるのは誤りでしょう*1。今回の公表文では「賃金上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現する」ことを目指すことが明記されました。

日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく。」

これはエネルギーや食糧価格の上昇による一時的なインフレに反応した機械的引き締めはしない方針を表明したものといえます。賃金上昇を伴う形でのインフレ目標の達成の重要性は黒田前総裁が強調してきたものですが、公表文に取り入れられたことはありませんでした。賃金上昇に注目した表現を金融市場調節方針の公表文に入れたことは、金利フォワドガイダンスの撤廃よりもむしろ重要だといえるでしょう。

記者会見でも植田総裁は拙速な引き締めのリスクを重視し、緩和を粘り強く続ける方針を強調していました*2

今回の会合では、日本がデフレに陥った1990年代後半以降の金融政策運営について、「1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行う」という発表もされましたが、これまでも政策の検証は定期的に実施されてきましたし、「政策修正に向けた伏線」といった評価は深読みのし過ぎではないかと思います。政策を検証するにしても、それなりの時間をかけてやるということでしょう。

植田総裁の過去の発言から私自身も当初はかなり懐疑的でしたが、今のところ、新執行部はよい意味で期待を裏切っています。

*1:元々、政策金利フォワドガイダンスにはその位置づけが曖昧であることに対してリフレ派からも批判がありましたし、コロナ禍対応終了に伴う微修正に過ぎないという植田総裁の記者会見での説明はおそらく額面通り受け取ってもかまわないでしょう。

*2:実際、拙速な引き締めでデフレ均衡に戻ってしまうリスクを考えれば緩和継続のリスクは遥かに小さいものです。植田総裁の判断は全く妥当だといえるでしょう。