柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

投資詐欺と経済学の常識

著名人の名前を騙った投資詐欺が流行っているようです。

投資詐欺が急増!名前悪用された有名人も注意呼びかけ|NHK 北海道のニュース

私が親しくさせていただいている先生方も勝手に名前を使われて被害に遭われていますが、SNS運営側もさっさと取り締まってほしいものです。なりすましをみかけた方はぜひ通報にご協力ください。

田中先生の書いておられる通りですが、そもそも経済学者で「必見!必ず儲かる株式投資!」なんてやる人はいません(笑)。もしそういう人がいたら、それはトンデモ自称経済学者か、なりすましの詐欺師だと思ってよいと思います。

経済学の最も大事な原理の一つは「世の中にフリーランチなどない」ということです。仮に「必ず儲かる株」、「必ず値上がりする株」なるものが本当にあるんだとしたら、誰もがその株を買おうとするはずです。当然、株価は上昇してすぐに儲からなくなるはずです。これは株に限らずなんにでもいえることです。

「濡れ手で粟」の儲け話が本当にあるとしたら、誰もがその事業を始めようとするはずですから、競争が働き、濡れ手で粟の利益を得る機会はすぐ消滅するはずです*1。儲け話の機会なんてそこらに転がっているはずがありません。

百歩譲って仮にそういう話があるとしても、何の理由もなしに儲かる機会をわざわざ教えてくれる人がいるのでしょうか*2。しかも、普通の人で赤の他人に何故教えてくれるのでしょうか。

市場が効率的であれば、濡れ手で粟の儲けの機会は存在しませんし、仮に市場が非効率だとしても、誰にでもわかるような儲けの機会は競争が働いてやはり消滅すると考えるのが妥当です。「怪しげな儲け話には裏がある」というのは経済学以前の常識に近い話ですが、詐欺には本当に注意したいものです。

*1:政府による参入障壁など競争を妨げるものがあれば、高い収益を得る機会はなくならないのではないかと思われるかもしれませんが、政府による参入障壁や補助金がある場合でさえも、政府の支援の獲得のために競争が起きます。レントシーキングにはそれなりのコストがかかるので大きな利益を得られるのは稀です。特に何の特別なコネもない素人が大儲けする機会などありえません。

*2:「手数料を取るから問題ないのだ」というかもしれませんけれど、つまり、それは少なくとも「儲け話を他人に教えることで得られる手数料の収入は、儲け話それ自体の収入よりも大きい」ということです。「儲かる機会を知っているのだが、事業をするお金が十分ないので、あなたの支援が必要だ」と言われた?それなら、その事業は銀行やプロの投資家には安全でないと思われたので融資を断られたということです。それこそ濡れ手で粟のもうけ話ではない証拠です。