柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

リバタリアン党ミーゼス・コーカスはなぜ危険か(3)

②Mises Caucusの明白な人種差別主義

前回に引き続き、リバタリアン党Mises Caucusの危険性について議論したいと思います。前回は、南北戦争について、「州の権利」の観点から南部連合を支持する主張の是非について検討しました。南部連合を支持する「失われた大義」神話は擁護不可能な歴史修正主義であることは明白です。

今回は、リバタリアン党の「南部連合支持は、合衆国からの平和な分離独立を暴力で阻止した連邦政府への批判」であるから正当だという主張の是非について検討しましょう。この問題に対する答えは極めて簡単です。既に前回議論したように、このような議論自体が白人至上主義団体による歴史の歪曲ですからそもそも成り立ちませんが、仮にこうした議論を認めるとしても、実際にMise Caucusのメンバーの主張を検討すれば、彼らの主張は「合衆国からの平和な分離独立を暴力で阻止した連邦政府への批判」などという生易しいものではなく、露骨な黒人差別に基づいているのは明白です。

そもそも、前回詳しく指摘したように、Ron Paul, Tom Woods, Walter BlockといったAdvisory Boardのメンバーをはじめ、Mises Caucusの幹部は白人至上主義者と密接な関係を保ってきた人たちです。Mises Caucusのメンバーは白人至上主義者と大っぴらに交際していますし、彼らの露骨な黒人差別的発言は至る所で容易に見つけることができます。

例えば、リバタリアン党ニューハンプシャー支部の公式Xは、2022年1月17日(公民権運動に尽力したキング牧師の誕生日)に「米国が黒人に負うものは何もない。もし何かあるとしたら、その反対だろう」(America isn’t in debt to black people. If anything it’s the other way around)と投稿しています*1。2024年5月10日にはリンカーン暗殺犯のジョン・ウィルクス・ブースの誕生日を祝って暗殺を称えています。このような暴力の称揚や黒人差別はリバタリアニズムの哲学に反すると思いますが、いかがでしょうか。

ニューハンプシャー支部の公式Xはつい最近(2024年6月19日)も、奴隷解放を祝うジューンティーンス独立記念日について「ジューンティーンス独立記念日を祝う者は皆米国から追放すべきだ」と書いています*2。この記念日は、1865年6月19日に、南北戦争に勝利した北軍のゴードン・グレンジャー将軍が南部の奴隷制度の廃止を命じたことにちなむ祝日ですが、この祝日を祝うことがなぜそんな重罪なんでしょうか?黒人差別以外の理由があるでしょうか?

Mises Caucusの南部連合支持が強烈な黒人差別と関係しているのは明らかです。Mises Caucusの支持者による黒人差別は極めて露骨で、アファーマティブアクション*3への反対とか行き過ぎたポリティカルコレクトネスへの反対とかいった言葉でごまかせるようなものではありません。例えば、「インシュリンは無料であるべきだ」と書いた黒人の人権活動家ニーナ・ターナーNina Turner氏(オハイオ州上院議員)に対して、リバタリアン党ニューハンプシャー支部の公式Xは、「ニーナ・ターナーの収穫する穀物は無料であるべきだ」という極めて侮辱的な(明らかに南部の黒人奴隷労働を思わせる)投稿をしています*4。さらに、「『インシュリンは無料であるべきだ』というのは、誰かに穀物の収穫を強制するのと同じくらい攻撃的だ」という恥の上塗りとしか言いようのない投稿を付け足しています*5ターナーは自分が黒人だからどうなどとは全く書いていません。黒人だから云々という彼女の属性の話を持ち出し異常な攻撃を仕掛けてきたのはリバタリアン党の方です。卑劣という以外に言いようがないと思いますが、他の感想をお持ちですか?

ターナー氏に対しては、Mises Caucusのメンバーのカリン・アン・ハロルス(Caryn Ann Harlos)(リバタリアン党全国委員会書記)も「自分が黒人だからって現代の奴隷制を支持するフリーパスを持っているわけじゃないんだよ。あなたは高潔じゃないし立派そうな外見をしているが邪悪だ。それは言い表せないようなディストピア的な人間の悲惨をもたらすだろう。偉そうに怒るな」と書いています。Mises Caucusの有力メンバーであるジェレミー・カウフマン(Jeremy Kauffman)に至っては、「あなたは奴隷になり、私の近所のために作物を収穫すべきだ。政治的信条に過ぎないのだから、投票で決めるべきだ。」と言い放っています。

カウフマンは、ターナー氏がかつて奴隷にされていた人々の子孫への補償金の支払い*6を検討すべきと主張していることを攻撃し、「ニーナ・ターナーはアフリカに帰るべきだ。奴隷制の賠償を支持するアメリカ人は全員市民権を剥奪され、祖先の国への片道切符を与えられるべきだ。」とか「 ニーナ・ターナーは奴隷商人と同じくらい邪悪であり、賠償を求める人々は国外追放されるべきだ」とも発言しています。全く常軌を逸した発言というほかありません。なお、ターナー議員は米国生まれです。

インシュリンの無償化や奴隷の子孫の方への賠償の賛否はともかくとして*7、これは常軌を逸した攻撃だと思いますが、いかがでしょうか?相手の言っていることがどんなことであっても、こういう心無い発言をするような人は軽蔑に値すると思います。こんな風に考えるのは”行き過ぎたポリコレ”なんでしょうか?こういう投稿はごく普通で別に攻撃的ではないと感じますか*8

*1:Fakertarians - Yup, no pandering to the alt-right here.... | Facebook

*2:ちなみに、同日にリバタリアン党フロリダ支部は、南北戦争の目的は奴隷解放ではなく銀行家の陰謀だったと主張する荒唐無稽な陰謀論を投稿しています。ただし、同じリバタリアン党でも、Mises Caucusに反対しているルイジアナ支部は、極めてまっとうな声明を出し、ニューハンプシャー支部の差別的投稿を強く批判しています。

*3:なお、念のため言えば、私自身はアファーマティブ・アクションには反対です。

*4:この事件の報道は、以下をご覧ください。Libertarian Party Thinks It’s OK to Tweet at Black People About Picking Crops | The New Republic

*5:一連のやり取りはここに保存されています。

*6:常識的に言って、賠償金の支払いは政府による過去の人権侵害の補償ですから、実際に実行すべきかどうか、手続きの問題や金額等には議論があるにせよ、リバタリアンの原則と全く矛盾しません。

*7:繰り返しますが、彼女は攻撃的な発言をしたわけではなく、自分の属性を持ち出して何かを主張したわけでもないのです。Mises Caucusのメンバーの反応は異常なもので、どう考えても擁護できるはずがありません。

*8:普通に名誉棄損で訴えて十分勝てるレベルの罵詈雑言にしか見えませんが、私は何か「勘違いしている」のでしょうか。