柿埜真吾のブログ

日々の雑感を自由に書きます。著書や論考の紹介もします。

池田信夫先生への公開書簡(5)

③『ミルトン・フリードマンの日本経済論』に対する書評について

3点目に移りたいと思います。先生は、拙著『ミルトン・フリードマンの日本経済論』について、「これはひどい本だった。フリードマンは日本経済なんか論じてないのに、思い込みでフリードマンをリフレ派にしている。PHP研究所は絶版にすべきだ」[1]と述べ 、「フリードマンはリフレ派ではない。インフレ目標にも反対していた。日本に政策提言もしていない。この本はでたらめだ」[2]と断定されています。

Twitter上のやり取りでご気分を害されたのかもしれませんが、これはあまりにもひどい評価で受け入れがたいものです。「フリードマンは日本経済なんか論じてない」とか「日本に政策提言もしていない」というのは明らかに事実ではありません。

先生はもちろんご存じのはずだと思いますが、フリードマンには「日本への処方箋Rx for Japan」という論文があります。「フリードマンは日本経済なんか論じてない」し、「日本に政策提言もしていない」というのは明らかに事実に反します。フリードマンは日本には何度も来ていますし、日銀金融研究所の顧問も引き受けています。『フリードマンの日本診断』という本も出ていますが、この本は1981年のシンポジウムの際のもので、フリードマンが日本経済に高い関心を持っていたことがうかがえるものです。

また、最晩年のフリードマン西山千明氏や中原伸之日銀審議委員と連絡を取り合い、量的緩和の提案にアドバイスをしていたことは周知の事実です。私自身、執筆の際に中原氏から詳しくお話を伺っております。

私が「思い込み」ではなく、実際のフリードマンの著書や論文、当時を知る方の証言等に基づいて議論を組み立てていることは、かなり丁寧につけた注釈や参考文献表を見ていただければわかるはずです。拙著ではフリードマンの日本について論じた文章を随所で引用しており、言ってもいないことを書いたりはしていません。私は、拙著でフリードマンはリフレ派であるといった不用意な書き方は一切していません。両者の違いも明記しています(207頁等)。アベノミクスの金融政策の方向性はフリードマンの提言に近いものだったという趣旨のことを書いていますが、これは特に私の変わった意見というわけではなく、ごく一般的な評価です。フリードマンは、西山千明立教大学教授(当時)や中原伸之日銀審議委員(当時)とは大変親しく、長期国債買い入れによるハイパワードマネーの拡大、今日でいう量的緩和を支持していました。これはリフレ派の提唱していた処方箋と近いものです。

フリードマンの日本経済への診断は誤りで、大した議論の価値がなく、私の本は絶版にすべきというご判断ならそれはそれで受け入れます。しかし、私が書いてもいないことで批判されるのは明らかに不当です。私はきちんと文献に基づいて書いていますし、中原伸之氏への取材もしております。私はフリードマンが言ったことと、彼の提言を発展させた主張を明確に区別して論じておりますし、思い込みなどという批判は当たりません。先生にとって私の著作が酷い本だったとすれば非常に残念で、「絶版にすべきだ」という先生のご判断は重く受け止めたいと思います。ですが、私の本は決してでたらめではありませんし、根拠のない理由で本の内容を歪めて伝えるのはどうか本当にやめてください。

 

[1]https://twitter.com/ikedanob/status/1624335622734491651?cxt=HHwWhsDR0ZGp5ootAAAA&fbclid=IwAR0USOVQlCnAZ6LeH4DhU6yjC9Z2QrfXDtXWFFEcqKRypfUfdwoydMOP0-U 

[2]https://twitter.com/ikedanob/status/1624356978524065793?cxt=HHwWgsDU1ZqE8IotAAAA&fbclid=IwAR0tXPu10UtTdu5GH1aTfc7lJPaLfZvOSdO0IoVQvecLBajg7Yr9tiUhyRk